宮城県内も6月には雨の季節を迎えます。特集は、去年7月の大雨で氾濫した大崎平野を流れる河川についての研究者の分析です。歴史を遡ると見えてきた河川の水害リスク。

東北大学災害科学国際研究所 高橋尚志 助教
「今回破堤・氾濫が発生したような場所は沖積低地と呼ばれる地形。約1万年前に河川の堆積作用などによって形成されてきた」

4月、4年ぶりに東北で開催された震災対策技術展。去年7月の大雨で氾濫した河川について、河川地形学が専門の東北大学災害科学国際研究所、高橋尚志助教が講演しました。

河川地形学が専門の髙橋尚志助教

東北大学災害科学国際研究所 高橋尚志 助教
「鳴瀬川と江合川、2つが作った低地。氾濫が生じたのは宮城県北部の大崎平野という場所になります」

氾濫した河川のひとつ、宮城県美里町の鳥谷坂地区の近くを流れる出来川では、堤防が決壊し、周辺の水田などが広い範囲で浸水しました。去年7月13日から16日にかけて上空の寒気や前線の影響で、県内は大雨となりました。大崎市古川では、観測史上最も多い最大1時間雨量74.0ミリの非常に激しい雨を観測。わずか4日で平年の7月の2.3倍にもなる392ミリの雨を観測しました。

去年7月の大雨で氾濫した出来川

今野桂吾 気象予報士「出来川の堤防が決壊した所に来ています。今も大型の重機で、堤防の復旧作業が行われています」

宮城県は、大雨で上流から流れてきた堆積土砂の撤去を行っていて、復旧工事は今年度中に完了する予定だということです。この出来川について、氾濫したのは大雨だけが理由ではないと高橋助教は指摘します。

専門家が指摘する氾濫の理由「縄文時代には海だった」

東北大学災害科学国際研究所 高橋尚志 助教
「内陸だが、かなり低平な低地と呼ばれる地形が広がっていて、ここで氾濫が起きた」


高橋助教は、出来川の氾濫には川が流れている大崎平野の地形に要因があるといいます。

東北大学災害科学国際研究所 高橋尚志 助教
「ここはもともと海が、約7000年前に縄文時代に海が入っていて、そこに鳴瀬川や江合川の土砂が流れ込んで来てその海を埋め立てるようにしてできた土地だった」

大崎平野は海だった?

歴史を遡ると、大崎平野の一部は海でした。美里町には、今もその証拠が残されています。

東北大学災害科学国際研究所 高橋尚志 助教
Q、素山貝塚とありますがどうしてこんな所に貝塚が?
「貝塚というのは、縄文人が貝を食べた後捨てるゴミ捨て場。この近くまで海が入っていて、縄文人が貝殻を捨てたんだと思います。なので、ここは内陸だがこの近くまで海が入っていたという証拠」

TBC

高橋助教によると、およそ7000年前の縄文時代には素山貝塚の近くまで海でした。貝塚には、縄文時代の人々が貝を食べた後に捨てた貝殻が今でも残っています。

貝塚で実際に見つけた貝殻

東北大学災害科学国際研究所 高橋尚志 助教
「大崎平野で去年氾濫があった場所は、縄文時代に海だった場所がその後、江合川や鳴瀬川が運んだ土砂によって埋め立てられてできた沖積低地という場所になっている」

浸水被害が起きやすい「沖積低地」と呼ばれる地形。地域には、水害が繰り返されてきたことを証明する石碑が建立されています。

川が運んだ土砂できた低地 大昔から水害が繰り返されてきた

氾濫が起きた大崎平野は、大昔から江合川や鳴瀬川が土砂を運んでできた低い土地のため、そもそも河川災害のリスクが高い土地なのです。浸水被害があった場所の近く、練牛地区にはこの辺りが浸水被害を受けてきたことを記す碑があります。記念碑には雨が降れば沼の水はたちまち溢れ、耕地や人畜に災禍をもたらす「魔の沼」になると刻まれています。

石碑に刻まれた「魔の沼」の文字

東北大学災害科学国際研究所 高橋尚志 助教
「あの辺りの家や木々がある所までが昔沼だったので、(沼を)干拓して出来た土地になっていますので、相対的に干拓した場所は周りよりも低いので水に浸かりやすい」

去年7月の出来川の氾濫による浸水域は、この名鰭沼があったとされる場所とおおむね一致します。

TBC

更に、今回の浸水被害の要因は土地が低いことだけではないといいます。大崎平野は普通の平野と違い、丘陵に囲まれた平野なのです。

氾濫のもう一つの理由 川幅が狭くなる「狭窄部」

東北大学災害科学国際研究所 高橋尚志 助教
「旭山の丘陵がありますと、それより上流側を通ってきた河川というのは海に抜けるまでに狭窄部と呼ばれる狭い場所を通らなければいけない」

TBC

出来川が合流する江合川の途中には旭山丘陵があり、旭山丘陵には川幅が狭くなる所「狭窄部」があります。狭窄部が途中にあると、川がうまく水を流すことできず、浸水被害が発生しやすくなるのです。

「狭窄部」により氾濫リスクが高まる

東北大学災害科学国際研究所 高橋尚志 助教
「大崎平野など低地と呼ばれる所は、相対的に水害のリスクが高い地形だということを知ってほしい。平常時から備えてどのように避難するかということを話あって決めておくことが重要」

河川地形学が専門の高橋尚志助教

歴史を紐解いて見えてきた水害リスク。水害から身を守るためには、私たちが住んでいる土地の地形をよく知り、備えることが大切です。

高橋助教は、河川の氾濫はある意味で自然の姿であり、そこに人々が暮らしていく以上は災害に対する備えを怠ってはならないと話します。だからこそ、近くを流れる川や地形がどういう災害をもたらしてきたのか歴史から過去の教訓を学び、水害に備えることが重要です。