牡馬クラシック一冠目の皐月賞(GⅠ、中山・芝2000m)が4月14日に行なわれる。幸いにして当日の天気予報は快晴。良馬場で開催できるのはほぼ確定で、気温が25度まで上がる予報が出ているため、発汗が目立つ馬も出てきそうな情勢だ。

 今年の皐月賞の話題は、なんと言っても昨年末のホープフルステークス(GⅠ、中山・芝2000m)を制したスワーヴリチャード産駒の牝馬、レガレイラ(牝3歳/美浦・木村哲也厩舎)が参戦すること。もし彼女が勝てば、1948年のヒデヒカリ以来、実に76年ぶりの牝馬による制覇となる。
  注目を集める紅一点のレガレイラ。ホープフルステークスで彼女が繰り出した末脚のパワフルさには、目を見張るものがあった。

 道中は後方から3番目あたりに待機し、第3コーナー過ぎから馬群の外をまくるように進出した。直線では先行集団がばらけるまでじっくりと待ち、坂下でゴーサインを受けると大外から鬼脚を爆発させて、粘るシンエンペラー(牡3歳/栗東・矢作芳人厩舎)ら10頭ほどを一気に差し切った。ゴールの瞬間にはクリストフ・ルメール騎手が手綱を抑えるほど、余力を残す余裕さえあった。上がり3ハロンは出走馬中トップの35秒0(2位より0秒4速い)、走破タイムが2分00秒2はタフな馬場コンディションを考えれば上々の時計だろう。

 追い切り後の共同記者会見で木村調教師は、ホープフルステークスからぶっつけでの出走となる点を問われると、「激しい競馬をすると、疲れをとるのにけっこう時間を要するのが今の競馬で、そういう意味では3か月の休養をもらったのはネガティブなことではないと考えています」と、影響なしを強調。心強いコメントを残す。

 さらに、牝馬として76年ぶりの勝利に挑む心境については、「素晴らしい馬が集まって、どの関係者もエネルギーを注ぎ込んでくるので、この時点で仮定でものを言うのは周りの皆さんに対して失礼かなと思っているので、なかなかコメントしづらいところではあります。ただ、中央競馬を普段から応援して下さるファンの皆様のことを考えれば、また新しいことをやらないといけないと思っています」と答えた。

 ここで言う”新しいこと”とは、もちろん表彰台の頂点に立つことを指しているのだろう。また、言葉を慎重に選ぶ木村調教師の口ぶりからは、かなりテッペンを意識している様子が感じられた。 懸念材料は、鞍上の乗り替わりだ。ご存知のように、ルメール騎手は先ごろのドバイ遠征で落馬事故があり複数箇所の骨折などで休養中。陣営は代役選びにかなり難渋したようだが、レース当週にギリギリのタイミングでベテランの北村宏司騎手に白羽の矢を立てた。

 同騎手はビッグレースでの騎乗経験も豊富で、2015年にはキタサンブラックの菊花賞制覇をアシストしたこともある腕利きのジョッキーである。決して北村騎手を不安視しているのではない。ここで『懸念材料』と記したのは、クラシックでは乗り替わりのテン乗りで勝利を収めるケースがとても少ないというデータによるものだ。

 昨年よりも馬体は、一段とたくましさを増したレガレイラ。前走のように強烈な末脚を炸裂させて勝ち切っても何の不思議もないポテンシャルの持ち主であるが、乗り替わりのテン乗りという点を差し引いて、「単穴」に評価を下げておく。
  本稿で「主軸」に推したいのは、昨年の朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ、阪神・芝1600m)を制して、JRA賞最優秀2歳牡馬に選出されたジャンタルマンタル(牡3歳/栗東・高野友和厩舎)だ。

 本馬はデビュー戦(京都・芝1800m)、続くデイリー杯2歳ステークス(GⅡ、京都・芝1600m)をいずれも楽勝し、2歳王者を決める朝日杯も先団からあっさりと抜け出して先頭でゴールしたように、レースセンスは抜群。今年初戦の共同通信杯(GⅢ、東京・芝1800m)は久々のレースということで、テンションが上がったのか道中は力んだ走りとなり、終いはよく追い込んだものの、2番手から抜け出したジャスティンミラノ(牡3歳/栗東・友道康夫厩舎)を捉え切れず2着に敗れた。

 ただ、このレースは1000mの通過ラップが62秒7、上がり3ハロンが33秒1という典型的なスローの上がり勝負で、ジャンタルマンタル自身も上がりは32秒6という凄い脚を使っている。共同会見で高野調教師が「(共同通信杯は)次の2000mを想定したレースをしてほしいと、ジョッキーに伝えていた」と話したように、距離の限界が囁かれがちな本馬に予行演習を施したとも言える。

 同会見において、レースで手綱を取る川田将雅騎手は「距離に関しては、これは本当にトライだと思っている」と話し、不安と期待が半々というニュアンスのコメントを残しており、おそらくレース展開やペースのことを指しているのであろう。「きちんと能力を発揮できる競馬になれば、と思っている」と締め括った。

 筆者もこの馬の本質はマイラーだと思ってはいるが、道中リラックスして走ることができれば、2000mは克服できる距離だと考えている。次の日本ダービー(5月26日)を意識して臨んでくる馬が多いなか、2400mへの距離延長が有利に働くとは思えないジャンタルマンタルは、ここが勝負だと睨んでいるはず。よって、本馬を「主軸」として推してみたい。 次いで「対抗」と評価したいのが、ジャンタルマンタルに唯一黒星をつけたジャスティンミラノ(牡3歳/栗東・友道康夫厩舎)である。

 同馬は新馬戦(東京・芝2000m)を楽勝すると、重賞初挑戦となる次走の共同通信杯は2番手から抜け出し、追いすがるジャンタルマンタルを1馬身半差で退けて優勝。わずか2レースで一気にクラシック候補の1頭に数えられる存在に浮上したわけだ。

 友道調教師は共同会見で、「2走目の共同通信杯でいきなり強いメンバーと当たってもいい競馬をしてくれたので、今回は初の多頭数競馬、初の右回りという経験をするなかでも、きっとクリアしてくれると思っている。何とか皐月賞馬としてダービーへ向かいたい」と自信を隠そうともしない。

 キャリアがまだ2戦という伸びしろ、ダービー3勝を挙げる敏腕トレーナーがかける期待の大きさも加味して、ジャスティンミラノには対抗の印を献上したい。
  一方、話題性の面からみても触れないわけにはいかない有力馬がいる。フランスのセリ市において210万ユーロ(当時のレートで約2億8000万円)で落札された、仏ダービー馬にして凱旋門賞馬であるソットサス(Sottsass)の全弟で、オーナーがサイバーエージェント社長の藤田晋氏というシンエンペラーである。

 凱旋門賞馬の全弟は新馬戦(東京・芝1800m)、京都2歳ステークス(GⅢ、京都・芝2000m)を連勝したものの、昨年12月のホープフルステークスではレガレイラの末脚に屈して2着。今年初戦の弥生賞(GⅡ、中山・芝2000m)では早めに仕掛けて出たコスモキュランダ(牡3歳/美浦・加藤士津八厩舎)を捉えることができずに、またも2着で涙をのんだ。世代トップクラス同士の戦いとなると、やや詰めの甘さが出てしまう印象である。

 管理する矢作調教師も共同会見で、「この馬が良くなるには経験が必要だと思ったので、弥生賞も使いました」とコメント。しかし、「使うごとに良くなっており、秋、あるいは来年に完成されるのではないかという期待を抱いています」と成長力を願っている。「世界の矢作」に対して失礼を承知でいえば、筆者もこの見方にまったく同意で、スケールの大きさは認めつつも、完成度の面で現状では他のトップホースにやや劣っているのではないかと感じている。よって、シンエンペラーは押さえまでと判断する。

 他にマークしておきたい馬を挙げておく。

 まずは逃げる公算が大きく、意外性のあるゴールドシップ産駒のメイショウタバル(牡3歳/栗東・石橋守厩舎)。次にデビュー3戦目の京成杯(GⅢ、中山・芝2000m)で僅差の2着に入り、安定感が際立つアーバンシック(牡3歳/美浦・武井亮厩舎)。そして、早めのロングスパートでシンエンペラーを降したコスモキュランダ。デビューから2戦2勝で、きさらぎ賞(GⅢ、京都・芝1800m)を制したビザンチンドリーム(牡3歳/栗東・坂口智康厩舎)の末脚は要注意だ。以上、挙げたのは人気が割れそうなため、ここまで手広く押さえておきたい。

 最後に、不運にも落馬事故で4月10日夜に人生の幕を閉じられた藤岡康太騎手のご冥福を心からお祈りいたします。合掌。

取材・文●三好達彦

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