長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は『わたしの通学ロード』(毎週月曜夜2:25-2:40、カンテレ)をチョイス。

■地元での私は一体……『わたしの通学ロード』

工藤阿須加をナビゲーターに、ゲストの幼少期の通学路にスポットを当てたドキュメント・バラエティ『私の通学ロード』。ナレーションを務めるのは乃木坂46の五百城茉央で、今回のゲスト(といっても放送は2023年のもの)は、サッカー元日本代表・大久保嘉人。彼の生まれ故郷である福岡県・苅田町の通学ロードを辿りながら、幼少期の彼の姿に迫っていく……って、福岡県・苅田町⁉私の地元でもあるじゃないの……。これは、番組や元日本代表をそっちのけで、私の話をするチャンスではないの……!

ひどい下心で番組を再生、大久保嘉人の実家から、通学路の実況が始まる。まず、彼の実家だという団地も見覚えがあるし、向かいにある自販機で飲み物を買ったことだってあるはずで、見ている私も一緒に懐かしくなる。こないだ帰省して、ちょうどこのあたりを散歩したところだ。同じ団地に、大久保嘉人の祖母が住んでいる部屋もあったそうで、現在の住人の許可を得て室内の様子を撮影していたのだが、壁には、今でも彼の身長を測った跡が残っていて、現在の住人はさぞ驚いたことだろう。このマジックペンの落書きが、大久保嘉人のかつての身長を表していたなんて、当然知らなかった筈だからだ。

さて、通学路を辿るカメラは、私が通っていた自動車学校の看板を映すと、すっかり知らない道へと潜っていってしまった。ここからは大久保嘉人のテリトリー、そもそも、この番組の主役は彼なのだから当然だ。幼少期の彼を知る人物たちが次々と現れては、皆が共通して「悪ガキ」であったと語るのは面白かった。しかも、蛇を捕まえて振り回しながら人を追いかけまわしていたというのだから、並みの悪ガキではない。もし私がそれをされたら、川に飛び込んででも逃れようとするだろう。

やはり、自分とは無関係の人間のゆかりの場所を巡り、ゆかりの人物に接するのは楽しいものである。ごく当たり前の事実なのだが、人には人の人生があるものだと痛感するのだ。たとえば30歳の人がいれば、10950日もの間、その人でいたということになる。30年間、その人として生きてきた。これは、案外見落としがちな事実であるような気もする。10950という数字を思うと、自分の中で、その存在の重みがぐっと増す。これは、私がこれまで、他者を心底舐めて生きてきたという恥ずかしい告白でもあるかもしれない。

それにしても、身内以外に、地元で私のことをカメラに向かって話してくれるような人間がいるだろうか。もしかすると一人か二人はいるかもしれないが、望みは薄いだろう。私は、悪ガキですらない、毒にも薬にもならない存在であったからだ。色々あって、今は親戚と呼べる人間もほとんどいない。家族も別の場所に住んでいる。地元に帰る必要がない。そもそも、地元でのことをいまいち覚えていない。高校はまだしも、小学や中学でのことなんて、ほとんど何も覚えていない。本当に通っていたのかどうかさえ怪しいところだ。九九が言えるから通っていたとは思うのだが……。