コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回紹介するのは、「ウルトラジャンプ」(集英社)で『新しいきみへ』を連載していた作者である三都慎司さんの『バイクの話』だ。

同作は、高校3年生だった三都さんが初めてバイクに乗った時のことを描いたエッセイ漫画。自身のX(旧Twitter)に投稿されると、多くの反響があって3万もの「いいね」が寄せられた。

そこで作者である三都さんに『バイクの話』を描いたきっかけや、こだわりのポイントについて話を伺った。

■唐突にバイクに乗りたくなった作者の三都さん
――ときは200X年、当時高校3年生だった三都さんは急に思った。「バイクに乗ってみたい」と。

バイクブームは三都さんが生まれる前のことで、当時の同級生にバイクの免許を取得する人はほとんどいなかった。理由もきっかけもなく、動機は今でも謎のまま。そして、高校卒業後に教習所に申込をするのだった。その勢いに身を任せた判断は、すぐに後悔へと変わっていく。

教習所にいたのはヤンキーばかりで全く水が合わず、教官も「授業中に3秒以上うつむいているヤツはどつく」と堂々と体罰を宣言する人だったこともあり、次第に「行きたくない」という気持ちが強くなっていった。

しかし、そんな中、技能指導が始まって、初めてバイクのエンジンをかけた瞬間、三都さんは感動して、この時のことを「『人生で一番ドキドキした日は』と考えると今でもあの日がまっさきに浮かんでくる」と振り返っている。その後、三都さんは無事に免許を取得し、晴れてバイク乗りになるのだった。

バイクの免許を取得して15年。「1人で走りまくる」という乗り方をしてきた三都さんのこだわりも語られ、読者からは「確かにバイクって不思議な乗り物。1人で走っていると無敵になった気分になる」「バイクを語っているだけなのに、とても深い話」といった好評の声が寄せられている。

■描いたきっかけは「自分の過去を反芻するため」
――『バイクの話』を創作したきっかけや理由があればお教えください。

『新しいきみへ』という連載が完結し、次回作について少し考え始めるタイミングでした。

数年間どっぷりと『新しいきみへ』の世界にいたので、次の作品を企画する前に「自分がこの社会や世界をどう捉えてるのか」「なにを楽しいと思ったり、なにを好きだと思ったりするのか」と向き合う必要があります。

ちょうどそういうタイミングでしたから、自分の過去を反芻するために描きました。もちろんそれだけで新しい漫画が描けるわけではないので、あくまで通過儀礼の一つですが。

――描いたうえで「こだわった点」あるいは「ここに注目してほしい!」というポイントがあれば教えてください。

情けない答えですが、そもそも他人に見せるために描いたものではないので、あんまりこだわりはありません。「たくさんの人に見せたい」というよりは、「私のことをフォローしてくれてる読者さんに、いま見せれるものを見せる」というのが私のXとの向き合い方です。

あ、でも、途中で登場するヤンキーや教官などは「愛嬌」が出るようには注意しました。私にとっても、教習所のヤンキーたちも大事な私の人生のひと場面ですから「愛嬌がでてほしいな」と思いながら描きました。ヤンキーは実際、あのあと仲良くなって教習中によく話したりしましたし。

あとは…登場するバイクを適当に描きすぎたことは後悔しています(笑)

結果としてバイク乗りの人たちがたくさん読んでくれてるとわかったときは、『あぁ!ごめん!バイクの絵は細かく見ないで!』と思いました。

――特に気に入っているシーンやセリフがあれば、理由と共に教えてください。

やっぱり初めてバイクでエンジンをかけるところは、当時の自分の感動をなんとか原稿で表現できたらいいな、とは考えました。自分の感覚を思い出すことが執筆の目的だったので、そこの表現がスベったら嫌だなと思いながら描きました。結果としてはギリギリ合格点というコマになったので、少し満足しています。

――三都さんは今でもバイクに乗っているのでしょうか。

乗っています。と言いたいのですが、基本的に連載中はずっと事務所に缶詰で、買い出しのとき以外に外へ出ないので、『新しいきみへ』を連載していたここ数年は乗っていませんでした。

いまは連載が完結したので、乗っていますよ。早朝の首都高でやけに安全運転なバイクが走ってたら、それは私かもしれません。乗ってても楽しいですが、私は元々理系だったこともあり露出しているメカを見てるだけでも十分楽しいですけどね。

――作中で「エッセイ漫画を久しぶりに描いた」とコメントしていましたが、やはり描いていてエッセイ漫画は創作漫画とは違う楽しさや面白さがあるのでしょうか。

そうですね。「作り方」も「作る動機」も異なります。

商業漫画では、自分自身を総括した上で、一回頭の中を全部白紙にした状態で世界観やキャラクターを作り上げるので、総力戦で新世界を構築する感じです。

自分と担当編集さんの美的感覚や哲学や人生観が全て詰まっているのですが、同時に、作者という存在を抜きにしても自立する世界であってほしいという大前提があります。そして既存のエンタメの文法に沿っただけのものでは描く意味がないので、いつも「新しい読書体験」を作れればいいなと考えています。つまり「バイクが好きだからバイク漫画を描こう」では、創作動機のベクトルが真逆です。

エッセイ漫画はどちらかといえば、連載をする前の「自分自身を総括する」という段階の産物ですから、描いていていろいろ思い出せたらいいなぁと思って描いてるだけですね。

結果としてできあがったもので、『これはフォロワーさんに見せても大丈夫かも』と思ったものはアップして、っていうだけのコンテンツです。もちろん「面白かった」と言っていただけたら嬉しいですが、「ぜんぜんリアクションしないでいいです。なんとなく描いただけなんで、興味のあるフォロワーさんだけ読んでみてください」という感覚でアップしてます。なので、結果として「いいね」の数が100とか1万とかは関係なく、そもそも通知を追っていません。

いま思いついた例ですが、子供の頃に見た景色を忘れないうちにイラストにしておく、とかに近いですかね。

自分にとって「今描かねば、明日には忘れてしまうかも!」というものを描いてますし、そういうものが脳内でちゃんと残っていてくれれば、連載を描く際にも道具になります。バイクの構造を知らないと作中にバイクが登場しても描けないのと同じで、乗り物の楽しさを自覚できないと漫画の中でそういうキャラクター性を描けないので。偉そうに喋りましたが、そう思っています。

――今後の展望や目標をお教えください。

次の連載作品をしっかりと良いものにすることですね。エッセイ漫画を描いたりして、いろいろと自分ともう一度向き合えたので、次の漫画が描ける状態になってきています(多分…)。

――作品を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします!

『新しいきみへ』を描き終えて「え?なんでこいつXでエッセイ漫画かいてるの?次回作は?」と思った読者さんや編集さんがいるかもしれませんが、これも次回作を描くための大事な儀式でして…大目に見ていただけたら嬉しいです。

次回作も「見たことのない新しい漫画体験を提示できたらいいな」と思いながら現在企画を進めています。楽しみにお待ち下さい。