2021年に乃木坂46を卒業した生田絵梨花は、昨今ソロアーティストとして充実の日々を送っている。ミュージカル映画の吹替に音楽番組のMC業、そして今春にはファン待望のアーティストデビューも果たした。4月26日に配信が始まったディズニー創立100周年記念映画「ウィッシュ」では、主人公のアーシャの声と、主題歌「ウィッシュ〜この願い〜」ほか劇中歌を担当している。乃木坂46卒業後も、彼女の伸びやかで透明感たっぷり声色は変わらない。17歳のアーシャが持つみずみずしさにぴったりの透明ボイスだ。グループを卒業したことで、むしろ唯一無二の声を生かす機会が増えてきたかのようでもある。そんな彼女が長年愛される理由に迫る。

■乃木坂46でレジェンド的存在になり得た理由

そもそもなぜ生田は乃木坂46でレジェンド的存在になり得たのか? まず乃木坂46が結成当時に意識していたパブリックイメージ「清楚でノーブルなアイドル性」にマッチしていた。ドイツ生まれの帰国子女、特技はピアノで歌が得意という絵に描いたような“お嬢様キャラ”に見えるが、実はおちゃめでエネルギッシュなメンバーでもあった。着ぐるみを着てメンバーを驚かせたり、全身タイツのような衣装を着てノリノリでドッキリ的な企画に参加することもしばしば。冠番組の「乃木坂工事中」(毎週日曜深夜0:15-0:45、テレ東系)では、自らの企画でグレーの全身タイツを着こんで天井にワイヤーで張り付いて“同化”、メンバーを驚かせたこともあった。

さらにはグループ屈指の大食いキャラでもあり、乃木坂46での大食い企画には欠かせないメンバーでもあった。乃木坂46の楽曲やミュージカルでの歌姫ぶりしか知らないでいると、そのギャップには大いに驚かされる。

そのミュージカル分野では「ロミオ&ジュリエット」「レ・ミゼラブル」「モーツァルト!」などスペクタクルな作品で主要な役を演じてきた。「レ・ミゼラブル」では、コゼット(2017年、2019年)に続いてエポニーヌ(2021年)としても出演。正統派ヒロイン然としたコゼットだけではない。現役アイドルが演じるにはハードルが高いエポニーヌもやってのけた。何事にも全力で、恥じるところが一切ない姿勢から現役メンバーにもファンは少なくない。

卒業後は、音楽のセンスに加えて持ち前の明るさ、おちゃめさも発揮。「Venue101」(毎週土曜夜11:00-11:30、NHK総合)ではかまいたちの濱家隆一とMCを務め、2人で“ハマいく”として楽曲「ビートDEトーヒ」もリリースした。リズミカルでファンシーな曲で、生田の高音も濱家ときれいにハモり、彼女の軽快なピアノの演奏パートがリスナーをウキウキさせる。

「ビートDEトーヒ」は振付もついていて、番組に出演したアーティストと曲を踊る様子もTikTokで公開。トークにとどまらず番組と音楽ファンを盛り上げてくれている。こんなふうに、誰と共演しても相性が合って場を明るくしてくれるのも生田の長所だ。

■シンガーとしての才能も遺憾なく発揮

4月にリリースした初のソロアルバム『capriccioso』は、自作曲「No one compares」をはじめ7曲を収録。ラグタイム調のリード曲「Laundry」に始まり、特技のピアノを生かしてグルーヴィーな曲たちをそろえてきた。SUPER BEAVER・柳沢亮太から楽曲提供を受けた「だからね」や、カバー曲として藤井風(『ガーデン』)、森山直太朗(『花』)、IVE(『ELEVEN -Japanese ver.-』)と、多ジャンルのアーティストの曲を歌い上げている。

TikTokにアップされた、生田本人がピアノの弾き語りで歌唱する様子を見ていると、ジャズクラブのようなちょっとゴージャスな空間で聴きたくなってくる曲たちだ。シンガーとして優れていることはもちろん、生田が歌う姿からは心の底から音楽を楽しんでいる幸福感が伝わってくる。

そんな彼女が吹替声優を務め、ミュージカル女優としての魅力を発揮しているのがディズニープラスで4月26日に配信された「ウィッシュ」だ。同映画の舞台は“どんな願いもかなう”という魔法の王国・ロサスで、生田はこの国で暮らす主人公の少女・アーシャの声を担当。ある出来事をきっかけに、隠されていた王国の恐ろしい真実を知ってしまい、ディズニー史上最恐のヴィラン(悪役)であるマグニフィコ王(CV:福山雅治)に勇気を持って立ち向かう“星に選ばれた少女”を見事に演じ切った。

もともとディズニー作品が好きだったという生田が念願かなって“ディズニーヒロイン”を務め、役と真摯に向き合った結果、ディズニー米国本社の担当者や製作陣もその演技と歌唱力を絶賛するなど、持ち前の美声が世界に届いた。

『capriccioso』には「気ままに」という意味があるが、その通りに思いのままに音楽や声で聴く人を癒してくれる。そんな生来の天真爛漫(らんまん)さがずっと変わっていないところが、今でもかわいい“いくちゃん”として愛される所以だろう。

◆文=大宮高史