三重県伊勢市の「宮川医療少年院」には、罪を犯した少年の中でも、発達障害や知的障害などがある人が暮らしている。再非行を防ぐにはどうしたらいいのか。少年たちは、障害があるが故の“生きづらさ”を抱えていた。

■社会復帰しても失敗…発達障害や知的障害抱える少年たちの「生きづらさ」

 2023年10月、三重県伊勢市で開かれた運動会。

徒競走や大縄跳びなど、保護者も参加するなか、競い合っているのは少年たちだが、ここは学校ではない。

少年の父親: 「1カ月半ぶりかな、会ったの。ここに来た時はすごい顔つきで、目つきも悪くて」 この施設は、罪を犯した少年たちが暮らす医療少年院だ。 三重県伊勢市にある「宮川医療少年院」は、罪を犯した少年のなかでも、知的障害や発達障害などがある少年たちが暮らしている。

社会復帰に向けた職業訓練にあたる「木工」や「陶芸」に…。

中学生に対しては学校の授業のような教養科目も設けられていて、施設名に「医療」の名前がついているが病気の治療ではなく、更生に向けた「教育」を行っている。

高山悟さん(仮名): 「宣誓!僕たち、選手一同は…」 運動会で選手宣誓をした高山悟さん(19 仮名)は、17歳の時に無免許でバイクを運転したほか、窃盗や仲間を暴行するなどの罪を犯した。

Q宮川医療少年院に来た理由はわかりますか 高山さん(仮名): 「………」 Qわからないですか 「はい」 高山さんは軽度の知的障害があるため、1年前に宮川医療少年院に送致された。 高山さん(仮名)の母親: 「しょっちゅう連絡がとれなかったりとか、夜中探し回ったりとか。警察から電話がかかってきたら『あーまたか』という感じで。毎回『これ最後にして』と思っているんですけど、周りの環境とかもあって流されて。また同じことおかしてしまって」

高山さんのように医療少年院に入る少年たちには、“ある特徴”があるという。それは「生きづらさ」を抱えている、ということだ。

宮川医療少年院の芝田宏之首席専門官: 「知的な制約や発達上の課題などを抱えていて、生きづらさを抱えている少年が非常に多い。社会に帰ってからも、生きづらさの中でいろんな失敗をしてしまう可能性が高い」

■「再非行」の不安から医療少年院に「まだ居たい」と話す少年も

 医療少年院では、1人1人の特性に合わせて定期的に教官が個別面談を行っているが、そのやりとりから見えてくる“課題”がある。 窃盗の罪を犯して医療少年院に入った、軽度の知的障害がある18歳の少年は、医療少年院を出られる日が近づいてきた。

教官: 「この前、調査支援の先生に『帰住できるよ』と教えてもらったよね。その時どんな気持ちだった?」 少年: 「まずは、ほっとしました」 教官: 「少年院にいなくていいんだ、期間終わったら出られる」 少年: 「そこまではいかないです。両方あります。まだ居たいというのもあるんですけど、早く出たいというのもあります」 教官: 「なんで居たいと思うの?」 少年: 「再非行とか絶対しないじゃないですか、少年院にいたら」

医療少年院を出た人が再び罪を犯す再非行の割合について、法務省は「公表できるデータがない」としているが、令和5年版犯罪白書によると、少年全体の再非行は31.7%だ。人とのコミュニケーションがうまくできない彼らにとって、その不安がつきまとっている。

Q再非行してしまう怖さはありますか 少年: 「あります。自分の気持ちがもやもやそわそわしている時とか、『失敗するなよ』と言われている時に失敗してしまったら、やっぱ自分“できない人間なんか”って。自分の気持ちが、どう対処したらいいかわからなくて」

■「認知機能」向上が“再非行の防止”に 訓練の成果は「絵」でも一目瞭然

 医療少年院では、日頃からトレーニングが行われている。この日のトレーニングは、2人で棒状に丸めた新聞紙を両手で交互に渡すほか、仲間と輪になり言葉を交わしながら、うまく回していくものだ。 宮川医療少年院の水谷将人法務教官: 「円滑なコミュニケーション能力だったり、就労や就学に向けた力を身に着けさせるために実施しています。社会の中で見る力、聞く力、話す力というのが弱くて、犯罪に加担してしまったりする子も多いと思いますので」

医療少年院の少年たちは、「認知機能」=人の五感を通じて物事を処理する力が、不足していることが多いという。

それは描いた絵からも見て取れた。この少年院の少年が入院当初に描いた、椅子に座る人の絵と、トレーニングを重ねた後に描いた絵を比べると、一目瞭然だ。 認知機能を高めて、物事を見極める力を身につけさせることで、出院後の再非行の防止につながるという。

芝田宏之首席専門官: 「見えている範囲が小さいということで選択できる範囲も少ない。できるだけその選択の範囲を広くするトレーニング。非行少年というのは非行で何か自分の空いている穴を埋めている。非行しかない選択肢を、非行じゃない物を探させる」

■バイクの無免許運転や窃盗等の罪を犯した19歳 興味を持った介護の会社の面接へ

 運動会で選手宣誓をしていた、高山悟さん(仮名 19)が、少年院を出る「出院」に向けて、興味を持っていた介護の仕事に就けるよう勉強に励んでいた。

ノートには文字がびっしりだ。 高山さん(仮名): 「少年院入ってきて初めは何も思っていなかったんですけど、介護という仕事を知り、そこから半年以上勉強続けて」

高山さんは2023年11月、希望する会社との面接に挑んだ。

社長: 「差し出たことお聞きするんですが、罪名聞かしていただいてもいいですか」 高山さん(仮名): 「はい、道路交通法違反と窃盗です」 社長: 「道路交通法違反。具体的には」 高山さん(仮名): 「無免許でバイク乗って事故して、ここに送られてきました」 女性社員: 「好きなこととか得意なこととか何か」 高山さん(仮名): 「好きなことは、人を助けること」

およそ30分にわたる面接の結果…。 社長: 「採用させていただこうと思いますので、よろしくお願いします」 高山さん(仮名): 「お願いします」 念願の仕事が決まった。 高山さん(仮名): 「ぶっちゃけこの仕事好きで、一択で選んだんですよ」

宮川医療少年院の秋山雄人法務教官: 「これまでの社会経験の中で不良文化の中で生活してきた子なので、『僕はただ頭が悪いから』というところで止まっていて。自分の障害的な特徴までは目が向いていなかったと思います。(障害を認識する)障害受容的なところは進んでいると思う」

■仮退院し新たな一歩踏み出した少年「何があっても冷静に大人の対応がとれるように」

 2023年12月22日、高山さんは、巣立ちの日を迎えた。 宮川医療少年院の滝浦将士院長: 「主文 本件 仮退院を許可する」

高山さん(仮名): 「過去の非行とかも振り返って、被害者さんの気持ち、立場になれるようになったことが一つ嬉しいです」 高山さんの母親: 「これからが試練だと思うので、私も見守りながら一緒にがんばっていきたいと思います」

約1カ月後、高山さんの姿は大阪府八尾市の介護施設にあった。 高山さん(仮名): 「オムツ交換、オムツ交換しよう。オムツ交換。さっきみたいにお尻上げて、あっち向いた状態で…」 オムツ交換をしたり、食事の介助をしたりと懸命に仕事に向かっていた。

高山さん(仮名): 「ガキみたいなことはせず、何があっても冷静に大人の対応がとれるようになりたい。ここで逃げたらどのみち一緒になるし、前と。だからこそ、今のここがなくなったら行く場所がないから、今のところで頑張って、いつかはケアマネジャーまでいきたい」 2024年1月19日放送