〝純白〟ソダシに愛おしげな視線を送る今浪厩務員

安田記念2023

[GⅠ安田記念=2023年6月4日(日曜)3歳上、東京競馬場・芝1600メートル]

 競馬ファンの間で今、最も名の知れた厩務員といえば? 栗東・須貝厩舎所属の今浪隆利厩務員で間違いあるまい。何せ「稀代のクセ馬」ゴールドシップ(GⅠ6勝)に、「白毛のアイドル」ソダシ(現GⅠ3勝)を育て上げてきたのだから、それも当然。そんな腕利きが間もなく厩務員人生を終える。果たして今、胸中に去来するものとは!? ソダシとの最後の歩みとなる第73回安田記念(6月4日=東京芝1600メートル)を前に、本紙に独占手記を寄せ、全競馬ファンに感謝の気持ちを伝える――。

 競馬ファンの皆さん、こんにちは。厩務員の今浪隆利です。私事ですが6月30日(退職日は7月20日)で厩務員としての仕事を終えることになりました。15歳の時から50年近くこのサークルでお世話になりまして。これまでを振り返ると、様々な思い出がありますが今、ファンの方々が大いに注目してくださっているソダシと競馬に臨むのは今回の安田記念が最後に…。これまでの感謝の気持ちをこの手記に寄せたいと思います。

 僕は1958年に北九州市で生まれました。小倉競馬場にほど近い場所で育ったこともあって競馬は身近な存在。高校を1年で中退した僕は73年に名古屋競馬で下乗り(騎手候補生)としてこの世界の門を叩きました。しかし、若気の至りもあって調教師と衝突。2年ほどで騎手の道を断念することに…。

 その後は北海道の優駿牧場で1年半ほど働きました。叔父が中央競馬で厩務員をしていたこともあって、76年に内藤繁春厩舎の厩務員としてトレセンに。その後は中尾正厩舎を経て、解散とともに2009年3月から須貝尚介厩舎のスタッフに加わりました。

ゴールドシップと出会って一変した厩務員人生

 僕自身の重賞初勝利は中尾厩舎時代の86年京阪杯(シングルロマン)でしたが、僕の厩務員人生が一変したのは、須貝厩舎で皆さんもよくご存じのゴールドシップと出会ってから。強烈な個性の持ち主でアイツだけで一日3万歩は歩かされたかな。機嫌が悪いとバンバン立ち上がったりする、とにかく難しい馬。普段の世話では本当にいろいろ悩まされましたが…。

 それでも競馬へいくと、その強烈な個性はすさまじい輝きを見せてくれました。内から瞬間移動したかのように突き抜けた12年皐月賞、超ロングスパートで制した菊花賞、そしてその年の有馬記念では出遅れて後方からになりながらも大外一気の強襲で勝ってくれるなど、圧倒的な強さを見せてくれました。

 その一方で14年天皇賞・春(7着)、15年宝塚記念(15着)など、出遅れから競馬にならないレースも。特に宝塚記念はゲートの隣にいたトーホウジャッカルに襲いかかろうとして右肩を擦りむいてしまって…。あの馬を威嚇しただけのレースになってしまいました。

 アイツとの思い出はたくさんあり過ぎて話は尽きませんが、これだけの馬に携われたのは厩務員冥利に尽きますし、任せてくれた須貝調教師、馬主さん、関係したすべての方々に感謝の気持ちでいっぱいです。

今がまさにソダシの充実期

初めて中2週での競馬に挑むソダシ

 実を言うと、60歳を超えてから体力的にきつくなってきて、3年前にも退職を考えた時期があったのですが…。まさにこれが運命の巡り合わせでしょうか。そんなころに出会ったのがソダシでした。初めて見た時はその美しさと同時に2歳馬としては考えられないトモ(後肢)の張りをした馬だなと思いました。

 ファンの方々が注目してくれて、常にプレッシャーとの戦いでもありましたが、そんな中で僕に初の牝馬クラシックタイトル(21年桜花賞)をプレゼントしてくれたうえに、これまでGⅠタイトルを合計3つも獲得してくれました。あの時に厩務員を続ける選択をして本当に良かったなと。

 前走のヴィクトリアM(2着)は大外枠からでも完璧な立ち回りをしてくれて、あと一歩のところでしたけど、この馬の力を出してくれたうえで、無事に帰ってきてくれたのが何よりでした。

 ソダシはこれまでゆったりとしたローテーションで競馬を使ってきましたが、今回はデビューして初の中2週で競馬へと挑みます。間隔が詰まるので疲れを心配しましたが、1週前の火曜の段階で前走時の488キロまで馬体が戻ったように、使った後の回復がすごく早かったですね。年を重ねるごとに進化してくれて5歳を迎えた今がまさにソダシの充実期です。

 ゴールドシップもそうでしたが、ソダシもローテーションをきっちりと守って、ずっと順調にレースを使ってこられたことに自分の中で達成感のようなものがあります。これも須貝調教師はもちろん、調教をつけてくれる浩平(北村助手)が頑張ってくれたおかげだと思っています。

 とにかくコンディションを万全にしてレースに臨んで、無事に帰ってきてくれて、また次のレースへと送り出すのが僕の仕事であり、役割です。そしてこれまでたくさんの声援、厩舎へのファンレターなどをいただいたりと、皆さんの支えがあったからこそ、ソダシも頑張り続けてこれたのだと思います。

 ソダシとの競馬はこれが最後になりますが、厩務員の仕事を終えた後はソダシの子供やゴールドシップ産駒の応援に競馬場へ行こうかなと。まずは無事に帰ってきてほしいのが本音ですが、僕の50年近い競馬人生の集大成の一戦にもなるので、これまで応援してくださったファンの皆さんの期待に応えるような走りを見せて、結果が伴うようなら最高というか、言うことなしですね。

 皆さんの応援が必ずソダシの力になると信じて挑みたいと思います。

著者:東スポ競馬編集部