2006年の春天を制したディープインパクト
2006年の春天を制したディープインパクト

【記者が振り返る懐かしのベストレース】今や1990年代の優勝馬が懐かしい。メジロマックイーン、ライスシャワー、サクラローレル、マヤノトップガン…。馬名からもステイヤーの重厚感が伝わってくる。東京2000メートルの秋は年々スピード化の傾向が強まり、ステイヤーの居場所が失われつつある。古き良き時代を今に伝える唯一の長距離GⅠこそが淀3200メートルで行われる春の天皇賞なのだ。

「坂越え2度」の言葉が示す通り、マイラーでは決して乗り越えられない過酷さこそがこの伝統のGⅠを彩ってきた。が、そんなイメージをガラリと変えてしまった怪物がいる。2006年優勝のディープインパクトだ。16ハロンの長丁場をスピード感あふれる高速中距離戦へと変えてしまったと言っても決して大げさではない。勝ちタイムは従来のレコードを1秒更新する3分13秒4。そこからハロンラップを遅い順に除いていくと、15ハロンが3分00秒2、12ハロンが2分21秒6、11ハロンは2分08秒9。軽々と各距離の日本レコードを完全にカバーしてしまうのだから、これぞ“史上最速ラップ”以外の何物でもない。

 ディープには全くと言っていいほどステイヤーのイメージがないが、それも当然。ラップに“間”がなければ16ハロンが11〜12ハロンにも感じてしまう。例えるなら、高く弧を描くアーチ形のホームランを見慣れてきた野球ファンの前で突然、低空飛行の弾丸ライナーでアッという間に場外へ消えていく異次元の打球を放ったようなもの。軽く飛んで余裕の上がり4ハロン44秒8→3ハロン33秒5とは…やはり希代の怪物だ。

 今年はどんなラップが見られるのか。楽しみに日曜を待ちたい。(2012年4月25日付東京スポーツ掲載)

【2006年・天皇賞春】ステイヤー決戦の常識を覆したディープインパクト 〝弾丸ライナー〟異次元の走り

著者:東スポ競馬編集部