上司=決定する人、部下=決定を実行する人というかたちで役割を分断すると、それぞれが自分のことしか見えなくなり、全体として進む方向を間違えがちになる。

現代の組織が抱えるこの問題を見事に言語化したのが、米海軍の原子力潜水艦「サンタフェ」で艦長を務めたマルケ氏だ。そしてその問題は「言い方」を変えるだけで乗り越えられると、近刊の『最後は言い方』で述べている。

「この本は日本人のコミュニケーションを考えるのに示唆に富む」と述べるHR界きってのオピニオンリーダー八木洋介氏に、本書の魅力を聞いた。

「伝える努力」が足りない日本人

この本は、アメリカ人が書いた本ですが、日本人がコミュニケーションの重要性を考えるために一石を投じています。

私は大企業の経営トップの方々にコーチングをさせていただく仕事をしています。そんななかで、すばらしいことをお考えでも、言い方が悪くて誤解を受けている方が結構いるという印象があります。

これまで、日本人は多くを語らないことをむしろ美徳と考えてきました。聞く側の理解力を問題視することはあっても、話す側の「伝える」努力の不足が問題視されることは少なかったのです。

「阿吽の呼吸」とか「空気」という言葉に、それが象徴的に表れているでしょう。

しかし、人材が多様化して、さまざまな意見を持った人がいる時代には、しっかり語らないと、相互理解が図れなくなります。

また、語り方に敏感でないと、本来の意図ではないことが誤って伝わってしまうリスクも高くなりました。

そして、従来通用した言い方は、従来のやり方を前提としたものです。それが崩れはじめているのです。