「平安時代の軍記物の文学作品では、貴族たちが夢で神のお告げを受けたり、吉凶を占ったりするのに対して、武士たちは夢を信じない態度を取るとか、夢を信じるのは恥ずかしいと考える人たちとして描かれています。これが文学研究における平安時代の武士像です。

私は文学研究で言われてきたことから少し視点を変えて、歴史書の中では武士はどのように扱われていたのか、同じことが言えるのかというところに注目しています。実際は夢を信じないわけではなかった、と考えて研究を進めているところです」

山口さんは大学に入学した当初は『枕草子』に興味を持っていた。そこから、平安時代の文学に描かれている「夢」に興味を持つようになる。

社会に出たことで研究の意義を感じる

学部生の時は大学院への進学を考えていなかったが、いったん社会に出て働いてみたことで、日本文学の古典を研究することの意義を改めて感じた。

「社会に出てみると、いろいろな人たちが関わり合って成立していると感じます。一緒に関わっている人たちが、どのような気持ちで、どんな考えを持って日々生活しているのだろうと考えたときに、どのようなイメージを共有しているのかが気になるようになりました。

そのなかで、日本らしさとは何かについて興味をもちはじめました。日本らしさだと言われていることの中には、昔からそう思われていたのではなくて、昭和に入ってから文学研究者によって見いだされたものが少なくありません。

その一例が『言葉に魂が宿る』という考え方です。万葉集には数例しかなかった表現から、研究者が発見して、日本人らしさとして指摘しました。

また、四季も日本の気候の特徴と昔から捉えられていたわけではなく、日本の特徴を対外的に主張する際に和歌の文化の中で醸成された四季が強調されたとも言われており、現在でも季節のイメージには和歌で作られたものの影響が濃く残っていると考えられています。

文学を通して、日本を再解釈するのが研究の醍醐味です。その成果は、クールジャパンなどで日本の文化を海外に売り出す際にも、寄与できるのではないかと思っています」