――なぜ健常者の社員が障害者と接触すると、全体の業績が上がるのですか。

健常者の生産性が上がるからだ。例えば、知的障害の人に指示書を渡しても、複雑な内容は理解できない。簡潔に教えたり、書き直したりする必要が生じる。作業工程もわかりやすいように組み直す。すると、誰に対しても優しく、働きやすい環境が完成する。健常者のミスも減り、業務が効率化していく。

さらに人間関係も良くなる。職場に障害者が入ると、元からいた社員は「自分は健常者だ」と意識するようになる。つまり、共通性が生まれる。

次に倫理観が高まる。何かサポートできないか、と各々が考えるからだ。障害者の中には、複数の指示を受けるとパニックに陥る人もいる。健常者同士で相談し、誰が何を伝えるべきか、内容を整理するようになる。

協力体制が構築され、自然とコミュニケーションが活性化する。結果的に相互理解が深まり、健常者の間でも配慮し合うようになる。1人1人の心理的安全性が高まり、業務パフォーマンスの改善につながるのだ。こうした効果は統計的な裏付けも取れている。

障害者がイノベーションを生み出す

――障害者雇用を「社会貢献、慈善事業」と割り切る企業も少なくありません。

特に大企業でその傾向が顕著だ。社員数が多く、障害者との関係性に濃淡が生じるため、利点を感じにくいからだろう。

そもそも大企業は、健常者の中でも優秀な人を採用しており、障害者を「足手まとい」と考えがちだ。組織に溶け込ませるノウハウもない。たいていの場合、特例子会社(親会社の雇用率に加算する目的で障害者雇用に特化した子会社)を活用し、義務さえ果たせばいいや、となってしまう。

こうした現状は、すごくもったいないと感じる。大きなコストを掛けているにもかかわらず、経営戦略を立てられていない。

注意すべきは、「優秀な健常者は多様性を潰す」という事実だ。周囲に違和感を覚えてもうまく自分を合わせる。苦手なことでも「やれ」と上司に命じられれば、何とかこなす。あるいは、期待を察して嫌な仕事にも自分から取り組む。

いつの間にか、似たような思考や能力の人ばかりの集団ができる。昔はそれでもよかったが、今の時代は通用しない。海外の企業に勝てず、日本経済の成長は止まっている。