戦場において急速に普及する攻撃型ドローンに対抗するため、なんと6輪バギーにガトリングガンを搭載した最新の対UAV車両が欧米で披露されました。実はこの車両、銃弾でドローンを撃ち落とすだけじゃないそうです。

ガトリングガン搭載の6輪バギー

 ウクライナや中東の戦闘でも見られるように、世界ではドローンを駆使した戦術が急速に進歩しています。いや、「進歩」というより「乱発」といったほうが正確かもしれません。子供向けの玩具売り場でもドローンが売られるようになり、ドローンは文字通り「誰でも、どこでも」入手できるようになりました。

 本来、UAVを駆使した戦術はレベルが高いものでしたが、もはや使い捨ての特攻兵器としても多用されるようになっており、一部では「カミカゼドローン」とも呼ばれるほどです。ただ、筆者(飯柴智亮:元アメリカ陸軍将校)は、使い方のレベルが低くなったようにも感じます。

 しかし、レベルが低くとも乱用されている以上、その対抗策は考えていかねばなりません。筆者は先日、ドイツのニュルンベルクで開催された安全保障・治安関連の展示会「Enforce tac 2024」で興味深い対ドローン車両を発見しました。

 それがカウンター・ドローン・テクノロジー社(以下CDT社)の「カウンター・ドローン・ヴィークル」です。

 ベース車体は、日本でもスポーツ用トライクのメーカーとして知られているCan-Am(カンナム)社の6輪UTV「アウトランダーMAX 6×6」です。一般的な4輪モデルではなく6輪を用いた理由は、車体後部に重量のあるミニガン(ガトリングガン)を搭載したからです。このミニガンは弾幕でドローンを捉え、物理的に破壊します。いわゆる「ハード・オプション」と呼ばれる対ドローン戦術です。

 展示モデルは射手が操作して射撃するものですが、予算次第ではRWS(遠隔操作式武器システム)を搭載することも可能だそうです。

 現代の戦場ではRWSはほとんど常識となりつつあります。決して安くないシステムですが、必要な人員が1人減るということは、負傷者が出る可能性や人為的ミスの可能性を大きく減らせるということでもあります。

 筆者は、近い将来UGV(無人陸上車両)型も出てくるのではないか、と考えています。UAVの発展にともなってUGVやUSV(無人水上艇)も確実に発展を遂げているからです。

ドローンを叩き落すだけじゃない 電子戦にも対応

 対ドローン戦術では「ハード・オプション」のほかに、もうひとつ「ソフト・オプション」があります。ハード・オプションが前述のとおり物理的な破壊であるのに対して、ソフト・オプションは妨害電波(ジャミング)によって、ドローンを操縦不能に陥らせるものです。

 こうした戦い方は、電子戦(EW)の一環として多くの人に知られています。この両者は「どちらが良い」ということはなく、どちらにも一長一短があると言えるでしょう。

 本車ではライフル型の対ドローン・ジャミングガンを後部に搭載しています。これは妨害電波をピンポイントで照射し、操縦不能にして落とす装置です。つまり、本車は状況に応じて、ハードとソフトを使い分けることが可能なのです。いうなれば、「剛柔自在の能力」とでも形容できるでしょう。

 車体の前後左右には、各1基ずつ合計4基のレーダーが搭載されています。ここで得られた情報は、車両だけでなく指揮所のJICE(統合情報収集部門)にも送られます。

 カンのいい方はお気づきかもしれませんが、本車はISR(情報収集・監視・偵察)アセットを構成するユニットのひとつとしてシステムに組み込むことが可能なのです。指揮所のパソコン画面には、数十個のモニターが分割して投影され、仮に数十機のドローンが飛来したならば、敵味方の周波数を瞬時に識別し、「こちらはハード・オプションで、あちらはソフト・オプションで」と、最適の対抗手段を瞬時に判断して、リアルタイムで指示を出すことができます。つまり、指揮統制までつながったシステムを構築することができるのです。

もはや待ったなし 原発やサミット警備にも

 以前から、こうしたハードとソフトの両方を統合した対UAV(ドローン)システムの構築は時間の問題だと筆者は考えていました。現在、UAVに関しては運用も対策も発展途上にあるといえます。

 人間でいえば、赤ん坊がようやく立ち上がるようになりかけている段階です。しかし、ここから先は、技術的にも戦術的にも進歩のスピードは加速していくことが予想されます。本車との出会いは、まさにそれを感じさせるものでした。

 対ドローン製品を提供する会社は数多いですが、そのほとんどはハード、もしくはソフト、いずれか一方の単一商品を扱っています。それに対してCDT社はハードとソフトの両方を、システムとして完成させ提供しています。筆者が知る限り、ハードとソフトをシステムとして完成させて提供している企業は、ノースロップ・グラマンのような大手を除いては、CDT社だけです。

 あくまでも「カウンター・ドローン・ヴィークル」はシステムの末端にあたる装備で、これがすべてというわけではありません。しかし、単体としても使用できるように作られており、防空に使用することも可能とのハナシでした。また、全システムを揃える予算のない相手にあわせて、システムのテイラーメイドもできます。

 現在、防衛省・自衛隊は「無人アセット」の装備化に注力していると聞きます。一方で、対ドローンの取り組みはあまり聞こえてきません。冒頭でも述べたように「乱発」状態のドローン攻撃は、日本にとっても現実の脅威となりえます。

 そう考えると、末端部隊レベルで運用できる小型のシステムの導入は急務でしょう。また防衛だけでなく、原発警備やサミットなどの国際的イベントでも、機動力がありハードとソフトの両面で対応できる本車のようなシステムは有効なのではないかと、筆者は考えています。