宮藤官九郎監督の演出は「切られないための戦い」!?
テレ東にて、宮藤官九郎が企画・監督・脚本を手掛けた、ドラマ25「季節のない街」 (毎週金曜深夜24時42分) を放送。仮設住宅がある「街」に暮らす個性豊かな住人たちの悲喜こもごもを描いた1話完結型の青春群像エンターテインメント。池松壮亮をはじめ仲野太賀、渡辺大知など豪華俳優陣が出演。

一体どんなドラマなのか? 宮藤さんと、主要キャストのひとり・オカベ役の渡辺さんにお話をうかがいました。

【動画】宮藤官九郎、妄想キャスティングが叶ったドラマ

今、連続ドラマ化する意味


季節のない街 クドカン前編
――本作は、山本周五郎の名作小説「季節のない街」(1962年発売)をベースに、舞台を12年前に起きた“ナニ”の災害を経て建てられた仮設住宅のある「街」へ置き換え、60年前の原作を現代の物語として再構築したもの。小説は、黒澤明監督の映画「どですかでん」(1970年公開)としても映像化されていますが、まずは今回の企画の成り立ちについてお聞かせください。

宮藤「原作も映画も20歳の頃に出会ったものなんですけど、当時、やみくもにエネルギーを感じたんですね。それから僕は劇団(『大人計画』)に入って、いろんな経験をさせてもらって。やがて50歳も目前になり。NHKで大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』という大きなお仕事をやって、ちょっと疲れたこと。コロナ禍になって世の中がストップしたこと。そういうタイミングで“何かやり残していることはないか?”と考えた時に“前からやりたいと思っていたこれだな”って。それで(企画を)提案して、いろんな方々がそこに乗っかってくれて、映像化となりました」

季節のない街 クドカン前編「季節のない街」第4話より

――今なぜ、この原作だったのでしょう?

宮藤「原作は昭和30年代に連載された新聞小説ですけど、扱っているテーマは親子の話であったり貧困の問題だったりするので、今の時代に通用しない話はひとつもない。むしろ今やるべきだなと思いました。スマホもありませんし、生活の様子は連載当時とは違いますが、人間の根っこは変わっていないと思うので、今を生きる人が見たらより刺さるんじゃないか、と」

――地上波放送は、今回が初。昨年8月よりディズニープラス「スター」にて全話一挙配信されています。最初に配信された際の反響はいかがでしたか?

宮藤「見た人、特に『どですかでん』を好きな人は『よく企画が通ったね』とか。『配役もぴったりだったね』と言ってくれましたし、初めて見た人からは『なんでこんなの、急にやったの!?』という反響もありました。僕がこれまでやってきた作品と比べると、かなり異質なものですから。ましてや映画でもなく、連続ドラマで。ただ、地上波で僕がやっているドラマをあまり見たことがないという人もたくさん見てくれたようで、それはうれしかったです」

季節のない街 クドカン前編「季節のない街」第10話より――そうした宮藤さんの中でも異質なドラマへの出演オファーがあった時に、渡辺さんはどう思われましたか?

渡辺「企画を拝見した時が、まさにコロナ禍で。自分自身を取り巻く環境を考えざるを得ない状況だったこともあって、まさに“こんなドラマが見たい”と思いました。世の中に鬱屈とした空気が流れている中、明るいものを欲してるのか、一緒に暗さを分かち合うものを求めているのかも分からない状況で、このドラマの中で描かれている人たちを見て救われたところもありました。明るく生きているでも暗く生きているでもなく、その日その日を人間らしく生きている。“自分らしい”も超えている人たちを見て、やってみたいと思いました」

季節のない街 クドカン前編「季節のない街」第3話より

宮藤「大知くんがやってくれたオカベという役は、舞台となる仮設住宅がある街の一番近くに住んでいる酒屋の店員さんで。疎外感と言いますか。あそこ(街)に行くと落ち着くし、友達(半助/池松壮亮、タツヤ/仲野太賀)もいるんだけど、住人ではないんだよな……という疎外感が日々あって。まさに、明るいでもない、暗いでもない存在でした。笑っているけど、泣いているような。そういう大知くんのお芝居の感じがドラマの中でもよかった。大事な役だったと改めて思いますね」

渡辺「ありがとうございます、うれしいです」

――群像劇ということで、宮藤さんが監督として気を配られたことはどこですか?

宮藤「せっかくオープンセットを作ってもらって、登場人物みんながそこにいて、そこで暮らしているかのような環境を整えていただいたので、あの空気感を何とか映像に活かせないかなと苦心しました。仮設住宅の何かしらの空気感、生活感のようなものが映ってくれないかな、と。現場では、みんな同じホテルに泊まって一緒にオープンセットに向かっての撮影で。結果、映っていた気がします。いつも近所で暮らしている人たちの感じが出たと思います」

季節のない街 クドカン前編「季節のない街」第2話より

渡辺「オープンセットのプレハブは、実際に仮設住宅を作られている会社が作ってくださって。撮影用のセットではないのでリアルなんだけど、そのぶん狭いんです」

季節のない街 クドカン前編「季節のない街」第10話より

宮藤「半助の部屋に男3人(半助、タツヤ、オカベ)がいると、座る場所もないんですよ(笑)。カメラを入れなきゃいけないので。だから室内なのに立ち話。結果、隣の部屋の壁をぶち抜いて撮りましたけど、あの狭さは確実に映っています」

宮藤官九郎監督の演出は「切られないための戦い」!?
――渡辺さんから見た、宮藤監督の演出は?

渡辺「リハーサルを重ねることに、どんどん変化するんです。宮藤さんは脚本も書かれているから当たり前ですけど、台本にないセリフでもアイデアがごまんと出てきて。台本を読んで思っていた以上のことが広がっていく現場でした。最終的には“これ以上、広がったらどこを切るんだ!?”って。いいセリフをカットしたくはないので、切られないための戦いになってきて(笑)、それもまた楽しかったです」

――音楽は、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」、大河ドラマ「いだてん」など宮藤さん脚本の作品でおなじみ大友良英さん。ともすれば暗く、悲惨にも映るシーンもやわらげていました。

宮藤「大友さんも、実は『どですかでん』が好きで、六ちゃん(濱田岳)が電車で走るシーンだけをつないで送ったら、その画(え)に合わせた音楽を作ってくれたんです。その曲がすごくよくて。お願いしてよかったなって思いました。あと、六ちゃんが初めて街を走っている時にかかっている曲は『うるさくてガチャガチャ鳴っているけど、結果、何も言っていない音楽を目指した』とおっしゃっていて、なるほどな、と。“悲しいでしょう?”も“おかしいでしょう?”も言っていない。うるさいのに、何も誘導していない音楽。さすがでしたね」

季節のない街 クドカン前編「季節のない街」第8話より

――オカベが歌う、泉谷しげるさんの「春夏秋冬」は最初から?

宮藤「現場で思いついたのではなく、台本から決めていました。“季節のない街に生まれ”という歌詞なので、どうしてもやりたかった。もっとやりたかったのは、オカベが恋するかつ子(三浦透子)がハモってきた時に、彼が言うセリフなんですけど(笑)」

渡辺「こういう歌を届けたいとイメージしていたものが、“なんか違う。あ〜、変わってしまった”っていう(笑)。怒っているわけではないけど、あ〜……君のせいで変わっちゃったよ、みたいな感じを出そうと思い、演じました」

【後編】では、宮藤さんの原作小説「季節のない街」、映画「どですかでん」との出会いから、渡辺さんの原点の話へ。宮藤さんが「季節のない街」に込めた思いも明かします。

季節のない街 クドカン前編「季節のない街」第6話より

【プロフィール】
宮藤官九郎(くどう・かんくろう)
1970年7月19日生まれ。宮城県出身。1991年より「大人計画」に参加。映画『GO』(2001年公開)、『謝罪の王様』(2013年公開)、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(監督兼任/2016年公開)、ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」(TBS系)、「ゆとりですがなにか」(日本テレビ系)、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」、大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(ともにNHK)、「不適切にもほどがある!」(TBS系)など多数の話題作の脚本を手掛ける他、監督・俳優・ミュージシャン・ラジオパーソナリティと幅広く活動。

渡辺大知(わたなべ・だいち)
1990年8月6日生まれ。兵庫県出身。2007年、高校在学中にロックバンド黒猫チェルシーを結成してボーカルを務め、2010年、ミニアルバム「猫Pack」でメジャーデビュー。2009年には映画『色即ぜねれいしょん』で俳優としてデビュー。2011年にはNHKの連続テレビ小説「カーネーション」で連ドラ初出演。2015年には『モーターズ』で映画監督デビューも。

(撮影/uufoy 取材・文/橋本達典)