イタリアンMPVとして初めて、日本市場へ投入されることになったフィアット「ドブロ」。フィアットが属すステランティス・グループのプジョー「リフター」、シトロエン「ベルランゴ」と共有パーツの多いドブロですが、先行投入されている2台とは何が違うのか? デザインや仕立てだけでない3台の差異を検証します。

ロングボディの荷室は最大2639リッターという大容量

 日本市場へ初めて導入されることになったイタリアンMPV、フィアット「ドブロ」を試乗することができました。

 フィアットというイタリアの自動車メーカーに対して、皆さんはどんなイメージをお持ちでしょう? きっと「小さくてかわいいクルマをつくってるブランド」という答えが圧倒多数でしょうね。

 とりわけ昨今のフィアットは、日本市場において「500」、「500C」、「500e」、「500X」、そして「パンダ」といった小型車ばかりを展開。最も大きなモデルでも、コンパクトSUVの500Xというラインナップでしたから、小さいクルマを専門に手がけるメーカーだと思われたとしても無理はありません。

 しかし同時に、そうした印象はかなり正解に近かったりもするのです。昔からイタリア人の暮らしを支え続けてきたのがフィアット。普通の人のためのクルマづくりを考えると、小さなクルマ、リーズナブルなクルマがメインになるのは世界共通の当たり前。そのゾーンを一手に引き受け、イタリア人たちを笑顔にしてきたのがフィアットなのです。小型車づくりが抜群に巧みなのにはワケがある、ということですね。

 そんなフィアットが、本国のラインナップの中でも少数派といえる“じゃない方のフィアット”を日本市場に導入しました。その名はドブロ。500シリーズやパンダなどと比べると、だいぶボディサイズの大きなMPVです。

 ドブロは元々、2000年に商用バンを柱とするMPVとして歴史がスタートしたモデルであり、乗用モデルは使い勝手のいい車体をうまく活かしたファミリーカーとして支持を集めています。

 イタリア車好きはこれまで、必要に迫られてMPVを買おうとしても選択肢がなく、そうした人たちはしばらくの間、ルノー「カングー」を選び続けてきました。現在、フィアットと同じステランティス・グループに属すプジョーから「リフター」が、シトロエンから「ベルランゴ」が日本に導入されていて、いずれも販売は好調なようですが、今回、ドブロの導入によってイタリア車好きがストレートにイタリア車を選べるようになったのは、いいニュースといえるでしょう。

 また、500系やパンダなどでは手狭になってしまったフィアット好きのファミリー層にとって、我慢せずに次の一歩を考えることができるうれしい存在でもあります。何せドブロには5人乗りだけじゃなく、7人乗りのロング版「ドブロ マキシ」まで用意されてるのですから。

 と、ここまでテキストを聞いたり、写真をご覧になったりして、クルマに詳しい方や勘のいい方は、もうお気づきになってることでしょう。そう、ドブロはプジョーのリフターやシトロエンのベルランゴの姉妹に相当するモデルなのです。

 5人乗りが全長4400mm、全幅1850mm、全高1800mm、7人乗りが全長4750mm、全幅1850mm、全高1870mmといったサイズ感もほぼ同じ。スタンダードボディでは最大2126リッター、ロングボディでは最大2639リッターという荷室容量も、だいたい同じです。

 その上、車体が共通なので、左右にひとつずつのスライドドアを備える点も共通ですし、リアゲートを開けずにガラス部だけを跳ね上げてラゲッジスペースへとアクセスできるガラスハッチを備える点も共通。また、5人乗りも7人乗りもすべてのシートが独立式で、7人乗りのサードシートがボディサイズの割にはかなり広々としてるのも共通。さらに、サードシートは前後に130mmスライドさせられるほか脱着も可能で、いろいろなアレンジが効くことも共通。つまりこの3台の使い勝手は、ほとんどいっしょと考えていただいて差し障りありません。

 クルマの基本的な成り立ちが同じ3台は、パワートレインもいっしょ。日本仕様は1.5リッターのターボディーゼルと8速ATの組み合わせで、最高出力130ps/3750rpm、最大トルク300Nm/1750rpmというスペックにも変わりはありません。リフターもベルランゴもパフォーマンス面での評価がかなり高いモデルですが、こうした数値を見た時点で、ドブロも同じようによく走るのだろう、と予想できてしまいます。

シンプルでクセのない顔つきが与えられたドブロ

 ならば、この3台はいったいどこが違うのか? 写真を見てお分かりのとおり、最大のポイントはスタイリングとインテリアのしつらえ、でしょう。

プジョー「リフター」やシトロエン「ベルランゴ」と基本設計は同じながら、イタリア車らしいデザインと走り味を楽しめるフィアット「ドブロ」

 ブランドのアイデンティティを体現しているリフターやベルランゴと比べて、いや、ライバルであるルノーのカングーと比べても、さらには、なぜかオラオラ臭の漂うモデルが多い日本のミニバンとは比べるまでもなく、ドブロにはとてもシンプルでクセのない顔つきが与えられています。

 こうした大勢で楽しいことをするためのクルマは、できるだけ平和で自然で親しみやすい雰囲気を醸し出していて欲しいもの。誰かに対してマウントを取ろうとするようなことを全くしてないデザインで、ひと目見た瞬間から好印象を抱きました。500シリーズもパンダもそうですけど、こうした友好的なところってフィアットならではの素晴らしい持ち味だと思うのです。

プジョー「リフター」やシトロエン「ベルランゴ」と基本設計は同じながら、イタリア車らしいデザインと走り味を楽しめるフィアット「ドブロ」

 そしてインテリアなのですが、これまた気持ちよくシンプルです。ダッシュボード中央のモニター以外、余計なものがないから視界は広々。トレイやボックスなどモノを置ける場所もたくさんあって、使い勝手も良好です。日本のこの種のクルマのようにソフトパッドやフェイクレザーを多用して豪華に見せようともしておらず、その割り切りがいいな、と感じられます。

 ドブロには主だった先進安全装備などイマドキ必要な装備類は欠くことなく与えられていますが、リフターの“グリップコントロール”やベルランゴのグラスルーフのようなプラスαといえるモノは何も与えられていません。足りないモノはなく、余計なモノもない。ひたすら機能に徹し、機能を整然とデザインし、チープではあるけれどチープなことを全く恥じてない……そんな印象です。

 そのため、過保護なクルマが欲しい人には向かないかもしれませんが、シンプル、ミニマル、オーセンティックといった言葉を意義深いものに感じられる人にとっては、間違いなくいい相棒になってくれるはずです。古くからのフィアットのファンは、過剰さのないこうした絶妙なしつらえのさじ加減、間違いなく好きですよね? 実は僕もこのクラスのMPVの中で、最も好きだったりします。

ドブロのコーナリングはフィアットらしい曲がり方

 ホントだったら、今回のレポートはここで「以上!」となるところだったのです。走り出してみるまでは。

プジョー「リフター」やシトロエン「ベルランゴ」と基本設計は同じながら、イタリア車らしいデザインと走り味を楽しめるフィアット「ドブロ」

 だって、基本構造同じ、基本メカニズム同じ、車重も似たレベル。先に上陸してるリフターとベルランゴをそれぞれ結構な距離ドライブしてきた筆者としては、間違いなくよく走るだろうと予想はしても、それを超える過大な期待などはしたりしないわけです。ドブロは、そういう意味では間違いなくよく走ってくれます。リフターやベルランゴと同じくらいに。

 発進の段階から力強く、いかなるときにも力不足など感じることなく、速度の伸びもよく、扱いやすい。この名機というべきターボディーゼルを積んだ3台の走りの出来のよさに、あらためて感服させられました。これはもうピッタリ予想どおり。

 予想や期待を超えてたのは、そのドライブフィールでした。走りの味つけ、といった方がいいのかもしれません。

 例えば、プジョーがリフターにスポーティ&コンフォータブルな乗り味を持たせ、シトロエンがベルランゴを魔法のカーペットのような優しくフラットな乗り心地に仕立てたように、ドブロは最初のコーナーを曲がりながら「えーっ!?」と声が出ちゃったくらい、フィアットらしい曲がり方を味わわせてくれたのです。これが本当にうれしかった。

 ドブロの乗り味はプジョーと同じように、スポーティ&コンフォータブルなのです。しかし、ここはとても感覚的なところなので言葉で説明するのは難しいのですが、プジョーがしなやかな筋肉とよく動く関節で曲がっていくようなところがあるとすれば、フィアットは体幹と腰で曲がっていくような感じ。また、プジョーが前輪駆動なのに後輪が車体をラインに載せていくようなところがあるとすれば、フィアットは前輪が反応した瞬間に後輪も反応してフロントからグイグイ食い込むようにして曲がっていくようなフィーリングなのです。

 ひと言でいうなら、ドブロのコーナリングはめちゃめちゃフィアットらしい曲がり方なのです。背の高いクルマだというのに、そこがものすごく楽しく、ものすごく気持ちいいのです。

 そうした似て異なる味つけが、同じ基本構造の中にもきちんと盛り込まれているのですが、あらためて申し上げておくと、3台はスポーツモデルでもなんでもなく、あくまでもMPV。人によってはミニバンと呼ぶカテゴリーのクルマなのです。その乗り味をフツーここまでキッチリとつくり分けますか? こうしたところにブランドとしての誇りを見たような気がします。

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 ちなみにドブロの価格設定は、スタンダードボディの5人乗りが399万円(消費税込、以下同)、ロングボディの7人乗りが429万円です。昨今の素材や輸送費の高騰ぶりを知ってると、ものすごくがんばった値づけであることが分かるのですが、そうでない方には少しばかり高価に感じられるかもしれません。

 でも、考えてみてください。国産の某MPVに先進安全装備をオプションで装着していくと、500万円を超えちゃうのです。どうでしょう? ドブロ、良心的な値づけだと思いませんか? そうでなくても、走りの楽しさにかけては、おそらくMPV系の中では随一。ドブロは根本的な部分からして、お買い得だと思うのです。

●FIAT DOBLO
 フィアット ドブロ
・車両価格(消費税込):399万円
・全長:4405mm
・全幅:1850mm
・全高:1800mm
・ホイールベース:2785mm
・車両重量:1560kg
・エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
・排気量:1498cc
・変速機:8速AT
・最高出力:130ps/3750rpm
・最大トルク:300Nm/1750rpm
・駆動方式:FWD
・サスペンション:(前)ストラット式、(後)トーションビーム式
・ブレーキ:(前)ベンチレーテッドディスク、(後)ディスク
・タイヤ:(前)205/60R16、(後)205/60R16