原油価格の高騰や円安などの理由でガソリン価格が高騰、それに対応する形で経済産業省から石油元売り各社に「燃料油価格激変緩和補助金(ガソリン補助金)」が支給され、ガソリンの価格も抑えられています。ただしこの措置も2024年4月末で終了する予定です。ガソリン補助金とはどんな措置なのでしょうか。これが終了するとガソリン価格はどのようになると予想されるのでしょうか。

3月11日現在リッター174.3円 そのうち22.2円がガソリン補助金で抑制

 ガソリンの価格について、いまほとんどの人が「高いなぁ」と感じているはずです。

 2024年3月11日現在、ガソリンの全国平均価格(レギュラー現金/資源エネルギー庁調べ、以下同)は1リッター174.3円で、2023年夏の高騰期よりは若干安くなったものの、170円超がほぼ9カ月続いています。

 これは新型コロナウイルスの感染拡大で120円台に落ち込んだ2020年4月から5月に比べ、1リッターあたり50円近く高い水準です。

 しかしながら、この高止まりするガソリン価格は、経済産業省から石油元売り各社に支給された「燃料油価格激変緩和補助金(ガソリン補助金)」により“抑え込まれたもの”であることをご存じでしょうか。

 ガソリン補助金は、2020年4月に取りまとめられた、「コロナ禍における『原油価格・物価高騰等総合緊急対策』」にもとづくもので、その目的は「原油価格の高騰が、コロナ禍からの経済回復の重荷になる事態を防ぎ、国際情勢の緊迫化による国民生活や経済活動への影響を最小化するための激変緩和措置」とされています。

 当初の発動条件は「全国平均ガソリン価格が1リッター170円以上になった場合、1リッターあたり5円を上限に、石油元売りに補助金を支給する」というものでした。

 そしてガソリン価格は2022年1月に170.2円になり、この条件を満たしたことで、事業が発動します。当初の事業期間は同年3月までとされていました。

 しかしその後、原油価格は高止まりが続き、それに歩調を合わせる形で補助金も合計6回の延長を繰り返すことになります。そしてその内容も「上限を35円、さらなる超過分についても1/2を支援」まで拡大します。

 2023年からは上限額を徐々に減らすなど、規模を縮小してきましたが、現在でも「168円から17円を超える分については全額支援、17円以下の部分は60%支援」となっています。

 そしてガソリン補助金の支給は、予定どおりであれば、2024年4月30日で終了となります。つまりこのままいけば5月1日からは、ガソリンは“補助金なしの素の価格”となってしまうのです。

改めて注目されるガソリン税の「トリガー条項」とは

 じつはこのガソリン補助金に、これまでに投じられた予算は合計6.4兆円で、もちろんその原資は税金です。

 あまりにも金額が大きいため、ピンとこない人もいるかもしれません。そこで消費税の税収と比べてみましょう。

燃料油価格激変緩和補助金(ガソリン補助金)の効果

 日本の消費税収は、2023年度予算で23.4兆円と見込まれています。

 つまり単純計算すれば、消費税でかき集めた年間の税収の4分の1以上をガソリン補助金事業に費やしていることになるのです。

 そしてここであらためて注目しておきたいのが、「トリガー条項」との関係です。

 トリガー条項とは、ガソリン価格が1リッター160円を3カ月連続で超えた場合、1リッターあたり53.8円かかっているガソリン税のうち、「当分の間税率」とされている25.1円分を免除する仕組みです。

 これは国民生活の負担を減らすため、2021年の民主党政権により導入されましたが、2011年に発生した東日本大震災の復興財源を確保するために発動が凍結され、現在に至っています。

 2022年2月14日、鈴木俊一財務大臣は、衆議院予算委員会で「トリガー条項の発動が1年間続いた場合、国および地方の税収減は1兆5700億円と見込んでいる」と答弁しました。

 つまりこの2年間でのガソリン補助金に費やした税金は、トリガー条項発動での税収減の4年分にも上っているのです。

 しかもトリガー条項が国民の負担を直接減らすのに対し、ガソリン補助金は石油元売り各社に支給されるため、そのすべてがガソリンの値下げにつながっているかどうかは不透明です。

 激変緩和事業という名目ではじまったものがここまで続き、巨額の税金を投入することになってしまったことを考えると、当初よりトリガー条項を復活させていたほうが、結果論ながらも、すっきりしていたのではないでしょうか。

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 さて、4月30日にガソリン補助金事業が終了すると、ガソリン価格はどうなってしまうのでしょうか。

 資源エネルギー庁は、直近の1リッター174.3円は、この補助金により22.2円抑制されたものとしています。

 つまり、もし補助金がないと仮定すると、ガソリン価格は1リッター196.5円と、“1リッター200円”にほぼ近い水準になると考えられるのです。

 今後の原油価格がどう動くのか、また外国為替相場はどう遷移するのかは予断を許しませんが、少なくとも現状の「原油高・円安」が続くのであれば、5月以降、とくにクルマを必需品としている地方在住の人にとっては、ガソリン代の高騰で家計の負担が大きくなる覚悟が必要になりそうです。

 2024年3月18日におこなわれた参議院予算委員会で、岸田首相は「国民生活や経済活動への影響を考慮して、検討していくことは当然重要なこと」と述べ、ガソリン補助金制度の延長を検討する考えを示しています。

 そのうえで「国際情勢や経済、エネルギーをめぐる情勢などをしっかり見極めた上で適切に判断」するとしています。