マセラティの歴史において、2004年に発表された「MC12」はマセラティの歴史において非常に重要な意味を持つモデルです。MC12とはどのようなモデルだったのでしょうか?

総生産台数はわずか50台あまりのスーパーカー

 イタリアン・ラグジュアリー・ブランドとして日本でも根強い人気を誇るマセラティですが、2020年に発表された「MC20」が高い評価を得るなど、近年ではスーパースポーツカーというカテゴリーにおいても存在感を強めています。

 ただ、マセラティの歴史を振り返ると、それは決して不思議なことではありません。

 1914年にイタリア・ボローニャで創業したマセラティは、1926年にイタリアの伝統的なレースである「タルガ・フローリオ」でクラス優勝を果たしたことをきっかけに、モータースポーツで輝かしい戦績を残します。

 1960年代になると、マセラティはモータースポーツ活動に区切りをつけ、これまでに得られた知見を活かしたスーパースポーツカーやグランドツーリングカーを立て続けにリリースします。

 なかでも、1971年のジュネーブ・モーターショーで発表された「ボーラ」は、マセラティのブランドを大きく向上させるモデルとなりました。

 「スーパーカーブーム」に沸く当時の日本では、V型8気筒エンジンをミッドシップに搭載し、高いパフォーマンスとラグジュアリーさを兼ね備えたボーラは特に注目を集めました。

 ただ、当時のマセラティの経営状態は決して健全とは言えず、シトロエンやデ・トマソの傘下に入ることでかろうじて事業が継続できている状態でした。

 一方、1993年にイタリア最大の自動車メーカーであるフィアットに買収されたことで、マセラティの運命は大きく好転します。

 フェラーリを傘下においていた当時のフィアットは、マセラティにフェラーリのノウハウを投入することでマセラティの再建を図りました。

 その結果、当時の「クアトロポルテ」などではフェラーリの技術が多く採用されることとなるわけですが、マセラティとフェラーリのパートナーシップは、2004年に発表された「MC12」でひとつの到達点を見ることになります。

フェラーリの技術が活かされた「MC12」

 MC12は、当時のモータースポーツの最高峰のひとつであったFIA GT選手権への参戦を目的に開発された、いわゆる「ホモロゲーション・モデル」です。

 ただ、MC12はまったくのゼロから開発が進められたわけではなく、2002年にフェラーリが発表した「エンツォ・フェラーリ」をベースとしています。

 そのため、MC12にはエンツォ・フェラーリと同じ6リッターのV型12気筒エンジンが搭載され、組み合わされるトランスミッションも、フェラーリの技術が活かされた「カンビオコルサ」と呼ばれる6速セミATが採用されています。

 しかし、フランク・スティーブンソン氏が手がけたそのデザインは、エンツォ・フェラーリとはまったく異なるものでした。

 レーシングカーとして必要な機能を備えながら、マセラティらしい優雅さを兼ね備えたMC12のデザインは、登場からおよそ20年が経った現在でも高い評価を受けているほどです。

 実際、そのプロポーションによって得られるダウンフォースは、エンツォ・フェラーリをもしのぐものであり、FIA GT選手権においてMC12は数多くの表彰台を獲得することとなります。

 MC12の総生産台数はわずか50台あまりとされており、これまで市場に出回ることはほとんどありませんでした。

 一方、現地時間2024年5月31日から6月1日にかけてカナダ・トロントで開催されるオークションでは、1台のMC12が出品される予定です。

 世界的なオークションハウスである「RMサザビーズ」には、2024年3月27日現在、1台のMC12が出品されています。

 オークションを主催するRMサザビーズによると、「ビアンコ・フジ」にエクステリアカラーを持つこの個体は、アメリカ・カリフォルニア州の「リバーサイド・インターナショナル・オートモーティブ・ミュージアム」が長らく保管した後、2016年からはカナダの収集家によって所有されたものであるといいます。

 ほとんどの期間をミュージアムで過ごしてきたこともあり、このMC12の状態は非常に良好です。現在のオーナーの手に渡ってからも、5万ドル(約750万円)以上の費用をかけて整備されており、まさに「新品同様」の個体です。

 この個体の予想落札価格は、325万ドル〜375万ドル(約4億8750万円〜5億6250万円)とかなり強気な価格に設定されています。

 ただ、MC12はマセラティの歴史において非常に重要な意味を持つモデルであるだけに、その落札価格に注目が集まっています。

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 2005年にマセラティがフェラーリの傘下を離れたこともあり、その後しばらくのあいだ、マセラティにおけるスーパースポーツカーの歴史は途絶えてしまっていました。

 一方、2020年に発表されたMC20によって、その歴史はふたたび動き出すこととなります。

 MC20には、「ネットゥーノ」と呼ばれる自社開発の3リッターのV型6気筒エンジンをはじめ、次世代のマセラティをになう新技術が数多く採用されています。また、MC20をベースとしたレーシングカーによって、マセラティはモータースポーツへの復帰も果たしています。