入場者数は過去最高の3万9807名となり、盛況のうちに幕を閉じたイベント「オートモービルカウンシル2024」。マツダのブースには「ロータリースポーツカーコンセプトの歴史と未来」として3台のコンセプトカーが並びました。その中でも54年前の東京モーターショーで初披露された実験車「RX500」に注目が集まりましたが、どんなクルマなのでしょうか。

マツダブースには3台のロータリーエンジン搭載のコンセプトカーが展示

 ロータリーエンジン(RE)開発グループの復活宣言が話題となったマツダが、ヘリテージカーの展示イベント「AUTOMOBILE COUNCIL 2024」に出展を行いました。

 今回の展示テーマは、「ロータリースポーツカーコンセプトの歴史と未来」とし、世界初の量産化に成功したロータリーエンジンを搭載したコンセプトカーたちが展示されました。

 展示車は、1970年東京モーターショーに出展された実験車「RX500」、1999年東京モーターショーに出展されたコンセプトカー「RX-EVOLV(アールエックス エボルブ)」、そして、ジャパンモビリティショー2023に出展された最新のロータリーEVコンセプトカー「MAZDA ICONIC SP(アイコニックエスピー)」の3台です。

 RX500は、現代へ続くロータリーエンジン車の未来を切り開いた1台といえるでしょう。

 実験車とあるように、RX500は、1967年に発売された日本初のロータリーエンジン車「コスモスポーツ」の後継車開発のスタディとして、1968年より開発が始まったそう。当時、設計部の部長だった松井雅隆さんによる「ミッドシップスポーツを検討したい」という考えから、エンジンを中央に配置し、後輪を駆動するミッドシップレイアウト(MRレイアウト)を前提としたクルマ作りが始まりました。

 その際に、空力特性に優れ、200km/hが出せるクルマという目標が掲げられました。これはコスモスポーツが、そのスタイルに反して空気抵抗が大きく、最高速度185km/hであったことがありました。

 200km/hに挑むべく、様々なデザインが検討され、後に初代ロードスターに開発に携わり、初代デザイン部の部長も務められた福田成徳さんが提案したものが、最も空力性能に優れていたため採用されました。

 オリジナルデザインのボディと専用シャシが用意されましたが、実験車であるため、パワートレインは、他モデルからの流用に。そこで肝となるロータリーエンジンには、当時最も高性能だったスパ・フランコルシャン24時間レース参戦のファミリアロータリークーペに搭載されたレースチューンを施した10A型を採用。

 それに前輪駆動車ながら縦置きレイアウトだったルーチェロータリークーペの4速MTを改良して組み合わせたものが搭載されました。

 RX500の開発は市販化を目指したものでしたが、全幅が大きく、3ナンバー車となってしまうことや構造上の問題でラゲッジスペースが確保できないことなどから、市販化に向けた開発を断念。

 その知見から、コンパクトでパワフルなロータリーエンジンに最適解として、フロントエンジンをキャビンよりに配置したフロントミッドシップのフロントエンジン・リア駆動(FRレイアウト)のスポーツカー初代「サバンナRX-7」へと繋がったそうです。

 その基本的なレイアウトは、歴代モデルにもしっかりと受け継がれています。

かつて「RX500」は3台あった!? そのウワサの真相とは

 かつてRX500は、3台存在したという噂がありました。

オートモービルカウンシル2024 マツダブースに出展されていた往年の実験車「RX500」

 その背景には、RX500が、実験車だけでなく、マツダのロータリー車の未来のPRを担ったことがありました。

 当初、RX500は、デザイナーの福田さんの提案でグリーンを纏っていました。しかし、1970年の東京モーターショーでは、イエローとなっています。これは、東京モーターショーのマツダブースのプロデューサーを務めた建築家の黒川紀章さんの提案で、12台すべての展示車のボディカラーがイエローで統一されたため。そこで急遽、RX500も、イエローに塗り替えられることに。

 さらに、1978年に発売された初代サバンナRX-7のPR活動にも使われることになり、華やかなイエローでは、主役を食ってしまうとの考えから、落ち着いたシルバーとブラックのツートーンに塗り替えられました。つまり、すべては1台のRX500だったのです。

 とくにシルバー仕様では、固定式ヘッドライトが追加されるなど仕様変更も行われていたため、そのような噂に繋がったのでしょう。ちなみにRX500の名称は、1970年が、マツダの創業50周年にあたることに由来します。

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 1999年に発表されたコンセプトカー「RX-EVOLV」も、新たなロータリーの歴史を創造した1台です。

1999年に発表されたコンセプトカー、マツダ「RX-EVOLV」

 経営不振から、1996年にフォード傘下となったマツダでは、ロータリーの次世代スポーツカーの開発が凍結されました。

 その決定を覆すべく、一部の開発者たちによる初代ロードスターベースの秘密の実験車を制作。あり合わせの材料ながら、開発者たちの魂が込められた自然吸気のロータリーエンジンを積む軽量なスポーツカーに試乗したフォード出身の役員の心を捉えたことで、新たなロータリースポーツカーのプロジェクトが始動します。

 そのコンセプトを世に知らしめたのが、このRX-EVOLV(RX-エボルブ)でした。環境性能を高めた新ロータリーエンジン「RENESIS」を搭載。米国でのスポーツカーに対する保険料の高騰に対する奇策として採用された観音開きドアが大きな特徴でした。

 この個性的な4ドアクーペのコンセプトは大きな話題となり、その基本構造をそっくり受け継いだ市販車として、2003年に「RX-8」がデビューしています。

 現在もRX-8は、手頃なスポーツカーやロータリー入門車として愛され続けています。展示車のRX-EVOLVは、2000年のデトロイトモーターショーでの仕様となっており、世界初披露となる1999年の東京モーターショーの仕様は、外装がブルー、内装がタンカラーでした。

 昨年となる2023年のジャパンモビリティショーでは、発電エンジンとなるロータリーエンジンを搭載したハイブリッドスポーツカーのコンセプト「ICONIC SP(アイコニックSP)」が世界初披露されました。

2023年に登場したマツダのコンセプトカー「ICONIC SP(アイコニックSP)」

 この次世代ロータリーエンジンには、カーボンニュートラル燃料を使用され、発電時もカーボンニュートラルを実現。システムは、現在発売中のシリーズハイブリッドとなる「マツダMX-30 Rotary-EV」と同様のものですが、エンジンが2ローターとなることで、パワフルさと特徴的なロータリーサウンドが楽しめるのが魅力です。

 コンパクトなロータリーエンジンは、市販化されたMX-30のような横置きの駆動レイアウトにも対応しやすいため、今後のハイブリッドカーとしての発展性にも期待が持たれています。

 アイコニックSPの2ローターのシステムは、システム出力370psが掲げられているため、エンジン単体の性能にも期待が膨らみます。RX-EVOLVが、ロータリーエンジンの伝統を守ったように、アイコニックSPが、ロータリースポーツの未来を切り開いてくれることを大いに期待しましょう。