美術館やアートイベントに行った際、XやInstagramで写真や感想を残す人も多いと思います。

しかし、実際にはSNSの特性上「OOOに行ってきたこと」と、「よかった」「おもしろかった」「考えさせられた」など通り一遍のことと少しの自分の感想を書くことが(筆者は)多くなってしまいます。

グワシ?も行った(指の形ちょっとちがう)ロング・ラブレターを見て窪塚洋介かっこよすぎ…?と軽い気持ちで原作を読んだらトラウマになった世代なのでやっぱり漂流教室は外せないんですが、わたしは真悟の続編の生原稿を見て筆力にゾワッとした…凄まじい…… pic.twitter.com/6wdyVvNGmj— 大原絵理香 (@ericaohara) March 14, 2022

「Chim↑Pom展:ハッピースプリング」圧倒的な情報量で圧倒的に良かった!大好きなスーパーラット、ブラック・オブ・デスを見て、LEVEL 7 feat.『明日の神話』に再会できて、毎回泣いちゃう気合い100連発でまた泣いて。森美が二層になって道が出来てたのもぶっ飛んだ!会期中あと何回行けるかな? pic.twitter.com/ZpJIZcdbUF— 大原絵理香 (@ericaohara) March 14, 2022

しかし、この「脱SNS」と「価値、体験についてもっと掘り下げること」を目指しプロジェクトとして立ち上がったのが、アートの専門家やアート好きの、10名からなる「ARTMeeT」。

彼らは現在、アートを観た体験を記録、共有できる、アートに特化したプラットフォーム「ARTMeeT」を制作中で、その前段階としてアートや自分とより深く向き合えるためのノート型のツール「ART NOTE」の開発も行っています。

この「ART NOTE」の最初のページには「問いリスト」と「感情の記録」を記載するページがあり、「問いリスト」には「その作品に(あなたなら)どんな題名をつけますか?」や、「作品の人物は何を考えていますか?」「3つのキーワードで表すなら?」などのお題が。これらの問いに回答するだけでも通り一遍の感想から脱却できそうです。

また、もう1ページの「感情の記録」には「刺激的」「落ち着き」「肯定的」「否定的」の4象限マトリクスがあり、展示ごとに、作品ごとに記載することで、自分がアートへどんな感情をもつのか、どんな作品がより好みなのか、ということが視覚的にまとめることができます。

今回は、「ARTMeeT」代表の田島琢巳さんに「ART NOTE」からいま会期中の展示会でのアートの見方などをお伺いしました。

ーーまず、「ART NOTE」の開発のきっかけを教えてください。
【田島琢巳】現在、私たちは、アートを観た体験を記録、共有し新しい価値観、仲間、“自分”に出会えるアートに特化したWebアプリプラットフォーム「ARTMeeT」を開発中です。きっかけはアートを観て感じる“モヤモヤ”を共有したいという想いからでした。しかし、プロトタイプでの実証実験を重ねていて、アプリの開発や体験のハードルの高さを感じていました。そんななかで、鑑賞体験記録に対して、よりハードルを下げる目的でノートを作りたい!と話が盛り上がった結果、3カ月という比較的短い期間で完成を迎えました。

ーー「ART NOTE」を通して、どのような行動変容を期待しますか?
【田島琢巳】アートを観て自分から出てくる言葉は自分の現状、体験、価値観のフィルターを通して紡がれたものだと考えています。

【田島琢巳】星の王子さまの名言に「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」というものがありますが、言葉を記録、積み上げ、俯瞰して振り返ることにより、肝心なこと=一番大切なことに気づくことができると思っています。そして、その気づき、は最終的には自己肯定感を高め、QOLを高められるのでは、ということを私たちは期待しています。

ーー現在、「ART NOTE」は発売に向けて準備中で、実際に何名かに対して「ART NOTE」を使用してもらったとのことですが、使用した感想や、集まったものからどんなものがわかったのか教えてください。
【田島琢巳】ワークショップの参加者も含め、現在まで30名近く体験していただいているのですが、「ひとつのアートから、自分の考えや今の悩み、性格と向き合うことができる」や「自分の意識を言葉や文字で向き合うことができる」などの意見をいただいており、「ART NOTE」は自分と向き合うことに有効だと確信しています。

【田島琢巳】アート鑑賞すると他人と意見交換したくなります。アート鑑賞の感想は自分、他人、作品というさまざまな軸で生まれてくるので、正解はないのですが他人の意見を聞き、それが自分と似た意見だと安心し、違う意見だと新しい視点・視座が得られてうれしく感じられます。そのため、当初のプロジェクトのスタートであった「ARTMeeT」アプリを早く出さなくては、という気持ちもより強くなりました。現在は、「ART NOTE」からはNFCチップでダイレクトに「ARTMeeT」アプリを立ち上げられるように設計しています。

ーー現在は、並行してアートのワークショップも実施されているとのことですが、どのようなワークショップが行われているのでしょうか?

【田島琢巳】2023年10月から「問い」を使ったアート鑑賞ワークショップを3回実施しています。例えば、先ほどの星の王子さまの名言でもあった「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。肝心なことは、目では見えないんだよ。」にならい、ワークショップの参加者の方から「あなたにとって目で見えない肝心なことは?」と直接聞いてみるというもの。

【田島琢巳】当日は「愛」「命」「つながり(他人、家族、友だち)」「思いやり」「義理人情」「失ったときに初めて気づくもの」「他人の本音、人の気持ち」「正義」「志」「使命」「信念」「学歴、ネットでのつながり」など、本当にさまざまな肝心なことがあがりました。

【田島琢巳】また、他にも、ジャクソン・ポロック、ワシリー・カンディンスキーの抽象画に対し、「1:名前をつけてみる」「2:問いのレンズをつける 」「3:お気に入りをみつける」「4:キーワードを上げてみる」「5:星で点数をつけてみる」という5つの問いを用い、ノートに記入したのちに参加者同士で自分の意見や感想を交換し合う、というものも行いました。

【田島琢巳】「捉え方、観点が増える、他の人がどう感じるか、何を表しているのかをもっと知りたい」などの感想が出て、自分を見つめ、他者を理解する場を提供できたかなと思っています。

【田島琢巳】このようなワークショップは今後も継続して実施予定ですので、もしご興味ある方は「ARTMeeT」の公式Instagramなどを見ていただければと思います。

ーーとっても楽しそうですし、おっしゃっていた通り、自分はもちろん他者とも向き合えそうです。ウォーカープラスはイベント情報・スポット情報をお届けするメディアでもあります。今から見れる展示会向けにもしよろしければ読者に向けてワークショップのような問いをいただけますでしょうか。
【田島琢巳】そうですね……プロジェクトメンバーの大豆生田さんに考えてもらったものですが、以下のものはいかがでしょうか。

国立西洋美術館:「ここは未来のアーティストたちが眠る部屋となりえてきたか?——国立西洋美術館65年目の自問|現代美術家たちへの問いかけ」
では、
・どうして昔の西洋美術を扱う美術館が、いま、現代の日本の美術展をするのか?
・美術とか美術館ってどんな役割を持っているのか?
・現代アートのメッセージは誰に?どこまで届くのか?

森美術館:シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝
では、
・異文化交流で「民藝」の現在は更新できるか?
・アフロカルチャーとアジアの工芸が出会うとどうなる?
・一番大事な人にプレゼントする作品をひとつ選んでみてください。その理由も!
・OO民藝、あなたが作るとしたらなに民藝?

【田島琢巳】あとは、新しいところでもひとつ。同じく森美術館からですが、
森アーツセンターギャラリー:MUCA(ムカ)展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜
・アーバン・アートってなんだと思う?
・バンクシー人気で加熱するストリートアートはなぜ高いの?
・ストリートアート、日本と海外で何が違う?

【田島琢巳】などはいかがでしょうか。これはきっかけでしかないので、アートを見ながら自分自身や、一緒に行った人と対話してみてください!

ーーたくさん!美術館へ行く楽しみが増えました。ありがとうございます。では、最後に一言お願いします。

【田島琢巳】アートにはまだまだ掘り下げられる価値と体験があると思っています。「ART NOTE」を置いて販売いただける美術館、ギャラリー、または実施に使用していただける教育機関、企業、自治体なども探していますし、ワークショップの出張開催も今後対応していきたいと思います。もしご興味ある方はぜひ公式Instagramまでご連絡いただけたらと思います。また、こちらのアカウントでは、「ARTMeeT」の開発状況や、ワークショップ開催のお知らせも投稿しておりますので、ご興味ある方は見ていただけるとうれしいです!

ーーありがとうございました!

最後にいただいた田島さんからの問いを持って、いつもよりも”価値、体験についてもっと掘り下げ”るため、美術館に行ってみてはいかがでしょうか。

取材・文=大原絵理香