老後資金の落とし穴、アレの選び方で「数十万円の差に」

定年退職をすると、原則として勤務先の健康保険組合からは脱退する。つまり、そのままでは医療費の3割負担などの制度も利用できなくなるため、退職後すぐに新しい保険制度への加入が必要になる。
その際の選択肢は大きく次の3つだ。
・国民健康保険(国保)に加入する
・勤務先の健康保険を「任意継続」する
・配偶者の勤務先の健康保険に「扶養」として加入する
それぞれに特徴とリスクがあり、家族構成や前年の年収によって最適解は変わる。
(1)国民健康保険:一見安く見えて、実は「退職直後が高い」落とし穴
退職後に多くの人が思いつくのが「国民健康保険(国保)」。
「自治体が運営し、全国どこでも加入できる制度です。医療費の自己負担は3割で、給付内容も現役時代の健康保険とほぼ同等です。しかし、注意すべきは保険料の算出方法です。
国保は前年の所得をもとに計算されるため、退職した直後の1年間は“現役時代の高収入”を基準にした保険料になります。
たとえば――
・現役時代に年収600万円あった人が退職した場合、翌年の国保保険料は年間約45万円前後になるケースも。
・収入がゼロでも前年の所得を基に請求されるため、「収入がないのに高い保険料を払う」状況が起こりがちです。
翌年度には所得が減少するため保険料も下がりますが、最初の1年をどう乗り切るかが重要になります」(ファイナンシャルプランナー・荒井友美氏)
(2)任意継続:保険内容はそのまま、だが「会社負担分が倍増」
次に選択肢となるのが、「任意継続被保険者制度」。
「これは、退職後も最大2年間、元の勤務先の健康保険組合にそのまま加入できる制度です。メリットは明確です。
・保険内容は現役時代と同じ。
・医療費の自己負担割合(3割)や付加給付制度なども継続できる。
・国保よりも給付内容が手厚い場合もある。
しかし、デメリットは保険料の負担増です。これまで会社と折半していた保険料を、退職後は全額自己負担します。つまり、単純に考えて保険料が2倍になるのです。
たとえば現役時代に月1万5000円を給与天引きされていた人の場合、任意継続後は月3万円前後を自分で支払う必要があります。しかも、加入できる期間は最長2年間。それを過ぎると国保などへ移行する必要があります」(同)
(3)配偶者の健康保険に「扶養」として入る:収入制限に注意
もう一つの選択肢が、「配偶者の勤務先の健康保険に扶養として加入する」方法。
「配偶者が会社員や公務員であれば、その被扶養者として認められることがあります。保険料を新たに支払う必要がなく、医療費の自己負担は3割のままなので、最も経済的な選択肢に見えるでしょう。
ただし、ここにも落とし穴があります。被扶養者として認められるためには、年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)であることが条件です。年金収入もこの枠に含まれるため、年金受給者の場合は注意が必要です。
また、配偶者の勤務先によっては、家族の扶養追加に伴って保険料負担が増すこともあり、家計全体では負担増となるケースもあります」(同)
ケーススタディ:3人家族の場合、年間保険料の差は?
「以下のケースで比較してみましょう。
夫:60歳、退職。前年年収600万円。
妻:58歳、パート勤務(年収100万円)。
子:高校生。
▪ 国民健康保険に加入した場合
前年所得に基づき、夫婦+子1人で保険料が年間約50万円前後(自治体により変動)。
加えて、介護保険料(40歳以上)が発生します。
▪ 任意継続を選んだ場合
保険料は会社時代の2倍、仮に月3万円とすると年間36万円。
ただし、2年経過後には国保に切り替えが必要。
▪ 妻の扶養に入る場合
妻の年収100万円であれば、夫は扶養条件(130万円未満)を満たさないため加入不可。
→結果として、任意継続→2年後に国保切り替えが最も現実的な選択になります。つまり、一番安く見える選択肢が必ずしも最善ではないのです」(同)
退職後の医療保険を考える際、見落とされがちなのが「医療費の自己負担額」。公的医療保険に入っていれば、医療費の3割負担が原則ですが、高額療養費制度などを適用するためには保険証の種類が関係する。
「たとえば、任意継続では会社健保の高額療養費制度(独自の付加給付)が引き続き利用できるケースもありますが、国保ではそれがない場合もあります。重い病気や長期入院に備える意味でも、給付の手厚さまで含めて比較検討することが大切です。
退職後の医療保険選びは、退職してから考えるのでは遅すぎます。ベストなタイミングは退職の3カ月前。この時期に次の点を確認しておきましょう。
・勤務先の健康保険組合に「任意継続」制度の有無を確認
・自治体に国民健康保険料の試算を依頼
・配偶者の勤務先に扶養条件を確認
・医療費控除・高額療養費制度の違いを整理
これらを事前に比較しておけば、家計に無理のない選択ができます。また、社会保険労務士やFP(ファイナンシャルプランナー)に相談すると、保険料や年金との兼ね合いまで踏まえた具体的なシミュレーションを提示してもらえます」(同)
退職後の保険料負担を甘く見積もると、老後資金に大きく響く。仮に、国保と任意継続の差が月3万円あったとすれば、年間36万円の差、20年間だと720万円の差が出ることになる。つまり、保険の選び方次第で老後資金の“見えない出費”が700万円以上変わる可能性があるのだ。この差は、退職金や年金でカバーできる金額ではない。
「公的医療保険を選んだうえで、民間の医療保険も検討する人は多いでしょう。ただし、民間保険は“主役”ではなく“補助的な役割”であることを忘れてはいけません。
たとえば、退職後に公的保険でまかなえない部分――
・差額ベッド代
・入院中の食事代や生活費
・先進医療費
などに備える形で、入院日額5000〜1万円程度の小型保障に見直す人が増えています。
医療保険の重複加入や過剰加入は、老後のキャッシュフローを圧迫する原因になります。まず公的保険でどこまでカバーできるかを把握し、その上で必要最小限を民間で補うのが賢明です」(同)
退職後の医療保険は「安さ」より「長期安定」で選ぶ
選択肢 メリット デメリット
国民健康保険 どの自治体でも加入可 初年度は高額になりやすい
任意継続 現役時代と同等の保障 保険料が2倍・最長2年まで
配偶者の扶養 保険料負担なし 年収制限あり・加入条件が厳しい
結論として、退職後の医療保険選びで重視すべきは「短期的な安さ」ではなく、「長期的な家計への影響」といえる。最初の1年をしのぐために任意継続を選び、その後は所得に応じて国保に移行するなど、段階的に見直す柔軟さが求められる。
医療保険は“入らなければならない義務”である一方で、どの制度を選ぶかは自由。その自由が、老後資金の余裕を左右する。「退職したら自動的に国保に入るもの」と思い込まず、自分と家族のライフプラン、年金額、健康状態を照らし合わせ、“保険も老後設計の一部”として見直す習慣を持つことが、安心して老後を迎えるための第一歩といえるだろう。
以上、ビジネスジャーナルより紹介しました。
編集者:いまトピ編集部

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