2025/9/13 15:08

『爆発する恐れ』住民のクレームは、不満ではなく「ニーズの集合体」

犬

蔭山氏は「いま日本の都市部で最も深刻なリスクは、駅近に残された古いマンションの管理不全です」と語る。

 空室が増加した結果、非住宅用途への転用が進み、地域の居住環境に影響を及ぼすケースも報告されている。

 こうした「老いるマンション」の後始末を公費で行うケースも出始めているとの報道もある。蔭山氏は「このまま放置すれば社会全体の負担することになる」と警鐘を鳴らす。


マンション管理のDXというと、アプリやシステムの導入をイメージしがちだが、Ring-ndxが注目するのはもっと根源的な課題――住民合意の形成である。DXの本質は、意思形成の透明化とプロセスの簡素化にある。

「不動産業界はDXが最も遅れている分野の一つです。その理由は、最終的な意思決定者が“住民”であり、彼らの合意を得なければ何も進まないからです。特に高齢化した住民に新しい仕組みを理解してもらうのは容易ではありません」(蔭山氏)

 そこでRing-ndxは「管理組合の一部を取得し、リースモデルを導入することで、住民の意思形成を支援する」というアプローチを取る。単にシステムを提供するのではなく、管理組合の一部を購入して共同所有者となり、運営主体としてリースモデルを導入する。住民は賃借人として住み続けながら、運営はプロに任せることができる。

 さらに、LINEを活用して居住者と日常的に接点を持ち、孤独死や生活上の困りごとを即座に把握できる体制も整えた。蔭山氏は「共用部分だけでなく“居住空間の内側”まで見守ることが、最終的な目標」と語る。

Ring-ndxのビジョンはユニークだ。蔭山氏は「クレームは美しいダイヤモンド」と表現する。

「住民からのクレームは、ただの不満ではなく“潜在的なニーズの集合体”です。クレームを集めて解決し、その情報をシンクタンクのように分析・提供することで、新しいサービスを生み出せる」

 同社には12万人規模の専門家・経験者ネットワークが存在し、マンション役員経験者や建築・法務のプロフェッショナルが参加している。案件ごとに最適な専門家をマッチングし、労働集約型の旧来モデルに依存せずに効率的なソリューションを提供するのが特徴だ。

日本のマンション関連市場は約30兆円で、そのうち「管理不全兆候のある市場」は4兆円規模との試算もある。Ring-ndxはまさにこの“誰も本格的に手を付けてこなかった領域”に挑む。

 もちろん課題は多い。蔭山氏は、多摩地域で取り組んだ「マンション再生プロジェクト」を例に挙げる。

 住民の意思形成が纏まらずに頓挫し、「住民合意の難しさと市場価値への影響を痛感した」と語る。それでも諦めないのは、「放置すれば、住民の安全が守られないだけでなく、地域全体の安全・安心にも影響する」からだ。

 大手不動産各社や行政とも連携し、少しずつ解決策を探る日々である。

蔭山氏は、社会課題に挑むスタートアップの経営者に向けてこう語る。

「社会課題は巨大市場ですが、簡単にはお金になりません。その分、参入障壁は高い。だからこそスタートアップが挑む余地があると思います。

 我々が行政や大手企業に応援されているのも、誰もやっていない領域だからです。信用はなくても、挑戦していること自体が評価される」

スタートアップに必要なのは「まずは実績を積み重ねること」。

 Ring-ndx自身も、大田区のイノベーションプログラムで表彰されるなど実績を重ね、徐々に存在感を高めている。

人口減少と高齢化は避けられない。マンション管理市場の課題は今後さらに拡大していく。Ring-ndxは、その渦中で「社会課題解決とビジネスの両立」を模索する。

 蔭山氏は最後にこう締めくくった。

「難しい問題だからこそ、誰かが取り組まなければならない。私たちは、仲間としてマンションの中に入り込み、DXを使いながら住民と一緒に課題を解決していきたいと思っています」

“老いるマンション”の再生は、単なる建物管理にとどまらない。都市の安全、住民の安心、そして日本社会全体の持続性に直結する挑戦だ。Ring-ndxの試みは、社会課題をビジネスとして成立させることの難しさと可能性を示している、とビジネスジャーナルが報じている。

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編集者:いまトピ編集部