2025/10/21 20:41

【大成功】『作品』364億円大ヒットを記録、歴代1位408億円に近づいている「歴史的な1年」

喜び

2025年は日本映画界にとって、歴史的な1年になりそうだ。7月に公開された『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 猗窩座再来』が364億円(10月13日時点)という大ヒットを記録。興収はまだ伸び続け、日本映画界の歴代興収1位『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020年)が打ち立てた408億円に近づいている。

吉沢亮と横浜流星が歌舞伎の女形を演じた実写映画『国宝』も6月からロングラン上映が続き、リピーター客に支えられて興収160億円に達している。こちらも実写映画の興収記録173.5億円を樹立した『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ』(2002年)に迫っている。

 洋画では『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』(52.6億円)や『ジュラシック・ワールド 復活の大地』(48億円)などの人気シリーズものが今年はヒットしているが、邦画の大ヒットの前に、洋画の話題は霞みがちだ。日本映画界は新しい黄金時代を迎えた、という声が聞こえてくるが本当なのだろうか? こうした日本の映画界の変貌について、映画業界関係者の声に耳を傾けたい――。

 冒頭でも触れたように、近年は日本映画のメガヒット作が次々と生まれている。映画興行のあり方が大きく変わってきたことは確かなようだ。毎日新聞で「シネマの週末・チャートの裏側」を連載し、映画興行に詳しい映画ジャーナリストの大高宏雄氏に、今年の映画興収をどう見ているのかをまず尋ねた。「『鬼滅の刃 無限城編』は公開前、200億円が目安とされていたので、予想を遥かに上回る大成功です。『無限列車編』を超えるにはこれから40億円以上を上積みしないといけないので、歴代1位になるかどうかは微妙なところですが、『無限列車編』に迫る数字を残すのは確かでしょう。同じ『鬼滅の刃』で歴代1位と2位を占めるわけですから、すごいことです。菊池寛賞を受賞したばかりの『国宝』は、年末にかけて映画賞が増えるでしょう。実写1位になる可能性が高くなってきました」(大高氏)

日本映画の興収構造が大きく変動している状況を、大高氏は次のように解説する。

「日本の映画界は1990年代以降、スタジオジブリ作品など邦画アニメが興行の中軸に入ってきました。『ドラえもん』『ポケモン』『妖怪ウォッチ』『名探偵コナン』『クレヨンしんちゃん』などの定番シリーズが、そこに加わります。細田守監督、新海誠監督の作品も名を連ねました。大きな変化は2020年です。『鬼滅の刃 無限列車編』の爆発的なヒットからです。コロナ禍で観客離れが起き、映画館が危機的な状況を迎える中、若い層やアニメファンが劇場に向かいました。アニメ隆盛の勢いに一段と拍車がかかったのです。この作品が映画界の救世主的な意味をもっていたことも、ここで改めて強調したいところです。

 このメガヒットによって、それまではある程度一定層に収まっていたアニメのファン層が急激に拡大していったと見ています。『無限列車編』以降では、『ONE PIECE FILM RED』(2022年)は興収203億3千万円、『THE FIRST SLAM DUNK』(2022年)は約165億円となりました。『名探偵コナン』は100億円の壁を超え、今年公開された『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』は150億円に迫りました。興行の次元が、それまでとまるで違ってきたのです。

 よく言われるSNSの発達は、やはり重要です。その際、熱量のある発信が多くなったことは指摘しておきたいところです。その熱量が人を動かします。それまでは情報の受け手であった人たちが、面白いと感じる作品を強烈に発信し、それが多くの人の信頼感を得て興行が広がるという循環性ですね。単なる受け手からの脱皮は、何も2020年以降ということではありませんが、規模感が違います。これにより、興行のスケールがますます大きくなっていきました。映画興行は、これまでとは異なる、未知の領域に入ってきたと感じています」(大高氏)

コロナ禍で動画配信が普及したことも、映画界に大きな影響を与えることになった。自宅待機中に『鬼滅の刃』のTVアニメシリーズを視聴したファンが、劇場版『無限列車編』の大ヒットを支えることになった。動画配信が日常生活に定着したことから、映画館は自分のお気に入りのキャラクターを応援する「推し活」の場になったと言われている。劇場アニメの多くは、入場者特典として人気キャラのポストカードや声優のインタビューを掲載した小冊子などを配布し、観客動員数を大きく伸ばしている。

 そうした映画の興行形態が変わっただけでなく、映画の製作スタイルも変わりつつあると大高氏は指摘する。

「これまで日本のヒット映画は、製作委員会方式でつくられたものが多かったのですが、最近は変化の兆しが見えます。製作委員会は多くの企業が参加しているため、企画段階から内容、製作費など、多岐にわたって意見調整をしていく必要があり、かなり手間を要します。リスクヘッジをして利益が出たとしても、ヒットした場合の取り分は減ります。そこに、風穴が開けられてきました。たとえば今年6月に公開され、約19億円の大ヒットとなったホラー映画『ドールハウス』は東宝のほぼ単独製作で、利益率は高いです。『国宝』は製作委員会方式ではありますが、高額な製作作品のゆえに、途中で何社かが離脱したと聞きます。それをアニプレックスの子会社であるミリアゴンスタジオが幹事会社となって、製作に行き着きました。大変なリスクを負ったわけですが、結果は周知のとおりです」(大高氏)上映時間が2時間55分もあり、しかも伝統芸能である歌舞伎の世界を舞台にした『国宝』がここまでの記録的大ヒットになることを事前に予想した人は少なかった。だが、アニメ製作の実績のあるアニプレックスと、その子会社であり、実写作品を企画・開発・プロデュースするミリアゴンスタジオが「BL」「萌え」「ライブ感」などのヒットアニメの要素をふんだんに盛り込み、さらに李相日監督の粘り強い演出が人気キャストたちの熱演を引き出すことによって、『国宝』を大成功へと導いたと言えそうだ。

製作や興行形態が変われば、映画宣伝もこれまでとは違ったものが求められるはずだ。1980年代や90年代のような派手なキャッチコピーが躍るTVスポットを、最近は見る機会が減っている。以前は試写会で映画記者向けに配られていた紙資料類を印刷しなくなるなど、宣伝費を切り詰めている映画会社が少なくない。映画宣伝の予算の注ぎ方も、ずいぶんと変わった。

「SNSが発達したことで、それまで情報の受け手側であった人たちは、宣伝的な手法による“仕掛け”をあまり好まなくなりました。仕掛けが過ぎると、逆効果になります。だから、これまでの宣伝方法が通用しなくなって、映画宣伝の担当者は頭を悩ませているのではと思います。今年のヒット作で、宣伝が大成功したと思われるのは『8番出口』でしょう。ヒットメーカーの川村元気氏が作った会社・STORYが企画を進めた作品で、比較的低予算にもかかわらず、50億円が間近になっています。地下鉄・東京メトロの周遊謎解きイベント(東京メトロ脱出ゲーム)とうまく連携できました。今も、地下通路などで映画のパッケージ袋を持った人たちが大勢歩いています。クリア者数も2万人を突破したようです。企画段階から、いかに宣伝的な展開を図れるか。非常にいいお手本のように感じました。仕掛けは仕掛けですが、これは受け入れられやすい戦略に見えました。加えて、最近のパブリストたちが注目しているのは海外映画祭です。今年、コンペ部門を新設した韓国の釜山国際映画祭は、邦画の上映が多く、盛り上がったと聞きます。海外の映画祭に出品することで、話題づくりに努めるやり方はこれからも続くのではないでしょうか。東京国際映画祭(10月27日~11月3日)も盛り上がってほしいものですが……」(大高氏)

映画宣伝だけでなく、映画評論も曲がり角に立たされている。創刊から100年以上の歴史を持つ老舗映画誌「キネマ旬報」は月2回発行から、2023年から月刊誌に変わった。映画評を載せてきた新聞や週刊誌も発売部数を減らし、映画評論家たちが執筆した映画レビューは一般層の目には届きにくいものとなった感がある。

 一方、25億円の製作費を投じ、米軍統治下の沖縄の秘史を描いた大作映画『宝島』は、映画評論や興収結果とは異なる場で話題となった。9月に『宝島』を公開したばかりの大友啓史監督が、『宝島』に辛らつなコメントをしたX投稿者たちに「ふーん」というリプライをしたことは、「うざ絡み」として炎上する騒ぎに。映画批評や討論には発展しない、不毛さを感じさせる一件だった。

 SNSの台頭によって、映画評論の場はこのまま消えていくのだろうか。日本の映画史を体系化したのみならず、アジア映画の発掘、紹介に尽力し、2022年に亡くなった映画評論家・佐藤忠男氏の生涯を追ったドキュメンタリー映画『佐藤忠男、映画の旅』(11月1日公開)を撮った寺崎みずほ監督に、映画評論家の映画への向き合い方について語ってもらった。ちなみに寺崎監督は、佐藤忠男氏が学長を務めた日本映画学校(現:日本映画大学)の卒業生だ。

「佐藤忠男さんは映画評論家として『日本映画史』など160冊もの著書を執筆された一方、アジアフォーカス・福岡映画祭のディレクターも務め、数多くのアジア映画を日本に伝えています。また、日本映画大学の学長として、李相日監督ら多くの映画人を育てています。映画評論だけでなく、多彩な活動をされていました。私も学生時代に佐藤さんの講義を受けました。佐藤さんの講義は面白かったですし、例えば溝口健二監督の『雨月物語』(1953年)を観た後に、溝口監督の家族構成などを学ぶわけです。家が貧しかったので、お姉さんが芸妓になって稼ぎ、一家を支えていたと。そういう映画の作り手の生まれ育った環境や社会背景についても学ぶことができたんです。佐藤さんの映画評論もそう。読んでいて面白いし熱いし、作品が生まれた文化的事情について分かり、近現代史を理解することにもなるんです」(寺崎監督)

 映画を一過性の娯楽、消耗品として扱うのではなく、ひとつの文化、芸術として、映画評論の第一人者だった佐藤忠男氏は向き合っていたことが『佐藤忠男、映画の旅』からは伝わってくる、とサイゾーオンラインが報じた。

『鬼滅の刃』360億円、『国宝』160億円超え 日本映画界は興行スタイルが大きく変わった!? | サイゾーオンライン/視点をリニューアルするニュースサイト『鬼滅の刃』360億円、『国宝』160億円超え 日本映画界は興行スタイルが大きく変わった!? | サイゾーオンライン/視点をリニューアルするニュースサイト

編集者:いまトピ編集部