【異常】トヨタ車、1年待ちの悪夢再来か「爆発的な人気」「4年待ち・中古価格が新車の1.5倍」
Amazon 中国発・ネクスペリア規制の衝撃
2025年秋、中国政府が突如として打ち出したのが、半導体メーカー「ネクスペリア(Nexperia)」製品の国外輸出制限だ。ネクスペリアはオランダに本社を置くが、中国のウィルセミ(Wingtech Technology)の傘下企業であり、実質的には中国資本が支配している。自動車向けアナログ半導体やパワートランジスタなどを数多く生産し、世界の自動車生産ラインの“縁の下の力持ち”として知られる。
欧州の自動車メーカーでは、すでにこの輸出規制の影響が表面化している。ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は、一部車種の生産停止を発表。同社関係者は「短期間で代替部品を確保できず、生産ラインの再編に時間がかかる」とコメントしている。一方、日本でも大手自動車メーカーが「一部車載用半導体の入手に支障が出ている」と報告。現時点では生産停止には至っていないが、供給リスクは現実化しつつある。
日本の自動車メーカーは、ルネサスエレクトロニクスを中心とする国内半導体メーカーとの取引を強化している。
だが、車載用半導体の供給構造をみると、国内調達だけでは到底賄いきれないのが実情だ。自動車1台あたりに搭載される半導体は、ガソリン車で約1000個、ハイブリッドやEVでは2000〜3000個にも及ぶ。
ルネサスが得意とするマイコン(制御用チップ)は国内調達できても、電源制御や通信系、センサー、カメラ用などの多くは海外製だ。特にネクスペリア製品は、トヨタ・日産・ホンダの主要サプライチェーンにも広く使われているとされ、輸出制限の影響が長期化すれば、「2021年の半導体危機」の再来もあり得る。自動車アナリスト荻野博文氏はこう指摘する。
「車載用半導体は汎用品ではなく、車種や機能に合わせてカスタマイズされている。一度調達先を変えるには設計変更と認証試験が必要で、最短でも半年はかかる。“代替調達”は口で言うほど簡単ではない」
人気車種「アルファード」「ランクル」に集中するリスク
市場ではすでに、人気車種の納期が再び延び始めている。特にトヨタの高級ミニバン「アルファード」とSUVの「ランドクルーザー」は、国内外で爆発的な人気を維持しており、受注が生産能力を上回る状況が続く。
「前回の半導体危機時には、転売目的での“投機的注文”も殺到。ランドクルーザー300は一時、納期4年待ち・中古価格が新車の1.5倍という異常事態を引き起こした。トヨタは今回、こうした混乱を防ぐために『受注制限』『グレード限定受注』などの対策を講じているが、部品供給が滞れば、いずれ同様の事態が起こりかねない。
また、ハイブリッド車特有の制御系半導体や、人気オプション(大型ディスプレイ、パノラマルーフなど)に使用される電子部品は、依然として供給逼迫が続く“ボトルネック部品”だ。特定の部品が欠けるだけで、完成車が出荷できないケースもある」(同)
EV時代が生む「中国依存の罠」
今回の問題は、単なる一時的な供給トラブルにとどまらない。むしろ、日本の自動車産業が直面する「中国依存の構造的リスク」を浮き彫りにしている。近年、日本メーカーはEV開発の加速に伴い、中国企業との連携を強化してきた。
たとえば、
・日産やホンダは、中国CATL製のEV電池や車体プラットフォームを採用。
・トヨタは、中国BYDとの提携でEVセダン「bZ3」を開発。
・ソフトウェアや自動運転技術では、ファーウェイ製OSや通信モジュールを利用。
こうした“合理的な協業”が進む一方で、地政学リスクが高まる今、「もし中国が供給を止めたらどうなるのか」という根源的な懸念が現実味を帯びてきた。
「EVのコア技術であるバッテリー、制御半導体、OSのいずれも中国の存在感が圧倒的に強い。中国が輸出制限カードを切るたびに、日本メーカーは『サプライチェーンの独立性』という難題に直面する」(同)
こうしたリスクを背景に、トヨタやホンダは国内生産体制の再構築に動き始めている。ルネサスを中心に、車載向け半導体の生産拠点を国内で強化。
また、ソニーとホンダが共同で設立した「ソニー・ホンダモビリティ」では、自社開発OS「Arene OS」による制御統合を進め、ソフトウェア面でも“脱中国”を模索している。
一方で、サプライチェーンの完全な自立には時間がかかる。車載半導体の多くは長寿命かつ耐熱・耐振動性を求められ、一般的なPC向けチップのように数カ月単位で設計変更できるものではない。トヨタ幹部の一人はこう語る。
「われわれが本当に確保すべきは“数”ではなく“安定供給”。そのためには国内外のパートナーとどう分散するかがカギになる」
見えない在庫、膨らむリードタイム
「世界の半導体供給は、パンデミック期を経て一度は安定したように見えた。だが実際には、車載用半導体市場は慢性的な“隠れ不足”が続いている。納入リードタイムは平均で20〜40週(約5〜10カ月)。設計変更が難しいため、メーカーは「過剰在庫」と「欠品」の両極端を行き来している。
特にハイブリッド・EV化が進むほど、必要な半導体の種類は指数関数的に増える。自動運転支援(ADAS)やコネクテッド機能には高性能チップが必要で、今後、“ソフトウェア定義車”時代に入るにつれ、車はもはや「走る電子機器」となる」
つまり、半導体不足は“過去の一時的トラブル”ではなく、今後10年にわたって続く構造的課題だと見るべきだ。
今回のネクスペリア問題を受け、政府も動き始めている。経済産業省は車載半導体を「戦略物資」と位置づけ、TSMC熊本工場(JASM)やラピダス(北海道)の支援強化を通じて、国産供給網の整備を急ぐ。
しかし、これらの工場がフル稼働するのはまだ数年先だ。短期的には、「ネクスペリア代替の確保」が最大の課題となる。経済安全保障の専門家は「今の日本車は、中国製チップやソフトに“無意識的に”依存している。サプライチェーンの安全保障を軽視すれば、いずれ“戦略的な急所”を突かれる」と警鐘を鳴らす。
供給リスクが変える「モノづくりの発想」
半導体不足は、もはや一過性の危機ではない。それは、自動車産業が直面する構造転換の“引き金”でもある。2020年代初頭、半導体の確保をめぐって「トヨタ・ショック」と呼ばれる教訓が生まれた。その後、トヨタはサプライヤーとの情報共有を強化し、在庫戦略を見直した。
だが、地政学の激変とEV・AI化の進展により、今やその“勝ちパターン”も通用しなくなりつつある。「納期1年待ち」というニュースは、単なる流通トラブルではない。それは、世界のモノづくりが“再構築”を迫られているサインであり、自動車という巨大産業が「安全保障」と「サプライチェーンの主権」を取り戻す闘いの始まりでもある、とビジネスジャーナルが報じている。
編集者:いまトピ編集部

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