【ヤマダ・ヨドバシ・ビック】池袋で9割まで回復「共存・SNSの拠点」で逆転

リニューアルしたヤマダが示した「家電の未来像」
9月、池袋東口にヤマダデンキの大型店「LABI1 LIFE SELECT池袋東口」がグランドリニューアルオープンした。従来の「量販型」店舗とは一線を画し、コンセプトは“体験型”。店舗内には実際のリビングやキッチンを再現し、ソニーやパナソニックなど各メーカーの最新製品を「生活空間の中で」試せる構成となっている。
例えばリビングゾーンでは、ソニーのテレビとBOSEのスピーカー、日立のエアコンを組み合わせたホームシアター体験が可能。スタッフがAIスピーカーで照明や音量を操作するデモも行う。「製品を“買う場所”ではなく、“暮らしを体験する場所”にしたい」(ヤマダ広報)という構想のもと、ライブ配信を通じた商品紹介や、ライブコマース連携も始まった。
「これは単にECに客を奪われた家電量販店の”延命策”ではなく、むしろ店舗を“動画スタジオ”として活用し、SNSやECへの流入を促すハブ機能として再定義しているといえます。つまり、リアル店舗がオンライン販売の“起点”となり始めているのです」(戦略コンサルタント・高野輝氏)
「ヨドバシ×西武」の衝撃…家電と百貨店の融合モデル
今回の“第2次家電戦争”の引き金を引いたのは、ヨドバシカメラの動きだ。同社は今年、西武池袋本店内への大型出店を発表。詳細はまだ明かされていないが、業界関係者によれば「百貨店の上層階を大胆にリノベーションし、“百貨店×家電”の複合モールにする構想」が進んでいるという。
「背景にあるのは、ヨドバシが近年展開してきた“ヨドバシタワー構想”です。秋葉原や梅田などでも見られるように、家電だけでなく、書店、飲食、ホテル、そして物流を一体化させる戦略です。西武池袋という都内有数の立地に進出することで、観光・宿泊・ショッピングを一気通貫で体験できる都市型拠点を目指している可能性が高いです」(同)
百貨店が苦戦するなかで、ヨドバシとの連携は西武にとっても“救いの一手”だ。百貨店が担ってきた「リアルの上質体験」を家電の分野に転用することで、新しい来店価値を創出する。その象徴的な一手となりうる。
EC時代の「逆転」…店舗がショールームではなくメディアに
長らく家電量販店は“ショールーム化”が進んでいた。来店客が商品を確認した後、最安値を検索してECで購入する――そんな構図が業界の悩みだった。
しかし、今起きているのは、その“逆転”だ。体験型店舗の進化によって、店舗そのものが「SNS的な拡散装置」へと変化している。ヤマダのライブ配信やヨドバシの複合施設構想のように、リアルな接点が「動画」「SNS」「インバウンド」に拡張され、顧客とのタッチポイントが無限に広がっているのだ。
さらに、家電業界では製品の高機能化・高価格化が進んでおり、「比較・体験・相談」が購買プロセスの中心になっている。特にAI家電やスマートホーム機器などは、機能を理解してもらうために実演・体験が欠かせない。店舗は単なる販売の場ではなく、「体験と理解の場」としての価値を取り戻しつつある。
“戦い”ではなく“共存”へ
池袋では、東口のヤマダ、西武のヨドバシ、西口のビックカメラが半径500メートル圏内に並ぶ。一見、過当競争のようだが、実際には「エリア戦略」として機能している。
「消費者にとっては、複数の大型家電店が集中することで比較検討がしやすくなることが大きい。観光客や地方からの来訪者にとっても、池袋が“家電の街”として再び認識されるようになります。この結果、エリア全体の来街者が増え、各社がそれぞれの得意分野で収益を上げる構図が成立します」(同)
特にインバウンド需要の回復が追い風だ。家電量販店は免税販売の比率が高く、2024年以降、外国人観光客による高額家電の購入が戻りつつある。訪日客は「秋葉原か池袋か」で家電を買いに行くケースが多く、各社は「池袋を第二の秋葉原」に育てることを狙っているともいえる。
家電量販店の動きは、池袋東口の再開発とも連動している。駅前では新たな商業施設「ハレザ池袋」や、グローバルブランドホテルの進出など、街全体が“滞在型・体験型”の街へと進化している。
豊島区のデータによれば、池袋の訪日客数は2019年比で約9割まで回復(2025年6月時点)。新宿や渋谷よりも宿泊費が安く、交通アクセスが良いことから“滞在拠点”として人気が高まっている。家電量販店各社は、単なる商業施設ではなく「観光インフラ」としてこの流れに乗ろうとしているのだ。
“体験経済”の中での再定義
従来、家電量販店のKPI(重要業績評価指標)は「売上」「来店数」「在庫回転率」だった。
しかし今、注目されているのは「体験時間」「SNS投稿数」「ライブ配信視聴者数」など、新しい指標である。ある大手家電メーカー幹部はこう語る。
「ユーザーが店舗で30分過ごしてくれれば、SNSに一回投稿してくれる。その投稿をきっかけにECで購入することもある。店舗のROI(投資利益率)を“来店→購買”ではなく、“来店→拡散→購入”で捉える時代です」
つまり家電量販店は、もはや小売業ではなく「体験を起点にしたメディアビジネス」へと進化している。ライブ配信スタジオ、SNS動画、メーカーとの協業イベント……そのどれもが新しい“販売装置”となる。
ヨドバシの動きは、単なる出店ではなく、都市インフラへの参入でもある。同社は物流拠点「マルチメディア配送センター」を全国で拡大しており、店舗を倉庫・EC配送のハブとして機能させている。家電を売るだけでなく、「都市生活における最後の1マイル」を自社で掌握しようとしているのだ。
この構想は、Amazonなどのプラットフォーマーに対抗する日本型の“リアルOS”構想ともいえる。家電、宿泊、飲食、配送を統合するヨドバシの都市モデルは、地方都市への展開も視野に入っている。
家電量販店は「街の体験拠点」として生き残るか
家電量販店の戦いは、もはや「どこが安いか」ではなく、「どこが面白いか」の勝負に変わった。体験・滞在・拡散・接客といった、非価格要素の競争が始まっている。
その意味で、池袋東口の動きは、家電業界だけでなく、日本の都市商業の未来を占うリトマス試験紙といえる。
今後は、AI家電やロボティクス、エネルギー機器など“体験しないとわからない製品”が増えていく。それらをどのように「街の中で体験させるか」が、次の競争軸になるだろう。
池袋東口に再び家電量販店が集う理由は、単なる競争ではなく「共創」にある。各社が同じエリアに集まることで、話題性と利便性を高め、エリア全体での集客を狙う。リアル店舗はもはやECに対抗する存在ではなく、むしろその“入口”となる。
“第2次・池袋家電量販店戦争”とは、リアルとデジタルの境界を超え、家電量販店が「体験のメディア」として進化する戦いなのである、とビジネスジャーナルが報じている。
編集者:いまトピ編集部
