◇大谷達也「クルマ新談義」

 フルモデルチェンジを受けたフォルスクワーゲン(VW)の人気スポーツタイプ多目的車(SUV)「ティグアン」の国際試乗会に、期待と不安が入り交じった思いで参加しました。

 期待していたのは、急速に電動化を進めているVWが、現行型の8代目ゴルフ以来、約5年ぶりにエンジン車をフルモデルチェンジしたことです。「もうVWは新しいエンジン車を売り出さないかもしれない」と心配していたので、率直にうれしいと思いました。

 一方で、不安もありました。8代目ゴルフはVW伝統の重厚な乗り心地の印象が薄れただけでなく、ボディーのしっかり感もかつてほどは感じられなかったからです。これらはコストダウンによって引き起こされる典型的な現象です。個人的には「VWが電動化に必要な原資を捻出するため、エンジン車のコストダウンに踏み切った」のではといぶかしがっていました。

 こうしたVWの変化を、ユーザーは敏感に感じ取ったようです。同社の世界販売台数は、2014年に約460万台まで迫ったものの、それ以降は右肩下がりで22年には約260万台へと低下。わずか8年間で4割も販売台数を落としたのです。いわば、世界の顧客はVWの新しい方向性に「ノー」を突きつけたとも言えるでしょう。

 しかし、新型ティグアンには、古き良きVWの良さがしっかりと感じられました。ボディーはがっしりとして揺るがず。乗り心地も、かつてのドッシリ感がだいぶ戻ってきたように思えました。

 今後も電動化は着実に進んでいくと予想していますが、だからといって品質の大切さを忘れていいことにはなりません。新型ティグアンに見られた「誠実なクルマづくり」が、今後のVW各モデルにも引き継がれていくことを強く期待しています。 (自動車ライター)