写真はイメージ(iStock)

 子どもに生まれつきのあざがあるのは、珍しいことではありません。しかし目立つ場所にあると、本人が将来気にするのではないか、まわりに指摘されるのではないかと心配になる保護者は多いでしょう。近年はレーザー治療の進歩によって、治るケースが増えてきました。治療のタイミングや方法について専門家に聞きました。

■レーザーでの治療が主流に

 生まれつきのあざは、かつては手術で切除するしかありませんでしたが、現在はレーザ―治療が主流になっています。レーザー治療は日進月歩で安全性や精度が向上し、やけどのようなあとや傷が残る副作用が出ることもありますが、その頻度はかなり減っています。

 ではどのタイミングで治療を受けるのが適切なのでしょうか。日本医科大学武蔵小杉病院形成外科で「血管腫・あざ外来」を担当する西本あか奈医師はこう説明します。

「基本的にレーザー治療は皮膚が薄い乳幼児のタイミングで行うほど、効果が高いと言われています。しかし、だからといって、全例に早い段階でのレーザー治療がすすめられるわけではありません。成長に伴って皮膚が伸びることでどの程度あざが薄くなるのか、治療後の再発の頻度などについて考慮する必要があります」

 例えば、もともとのあざの色が濃ければ、成長に伴って薄くなったとしても、やはり目立ちます。一方、もともとの色がそれほど濃くなければ、成長したときに目立たなくなる可能性もあります。この判断には客観的な指標があるわけではないので、あざの治療経験が豊富な医師に相談することをおすすめします。

■レーザー治療しても再び出現する「あざ」がある

 また、あざの種類によってはレーザー治療をして一度は消失しても、再び出現することがあります。再発しやすいのは次のようなあざです。

・太田母斑(おおたぼはん:片側のおでこやその周辺にできやすい点状の青いあざ)

・単純性血管腫(たんじゅんせいけっかんしゅ:平坦な赤いあざ)

・扁平母斑(へんぺいぼはん:平坦な茶色いあざ)

 レーザー治療は安全性が向上したといっても、子どもにとってまったく負担がないわけではありません。局所麻酔をしても照射の際に多少痛みを伴うことがあるほか、範囲が広かったり目の近くにあったりする場合、あるいはじっとしているのが難しい場合は全身麻酔で実施することもあります。また、治療は1回ですむわけではなく、3カ月くらいの間隔をあけて、あざが消えるまで繰り返します。

「特に再発しやすいあざに関しては、ある程度の年齢になってから本人と相談して決めるのも一つの方法です。実際にあざを自分の個性だと捉えて、まったく気にしない子もいます」(西本医師)

■「異所性蒙古斑」は早く治療を受けたほうが効果的

 一方、保護者が気になる段階で早めに治療を受けたほうがいいあざもあります。お尻以外の場所にできる「異所性蒙古斑(いしょせいもうこはん)」です。

「異所性蒙古斑は特に、生後の早い段階での治療効果が顕著です。再発もほとんどありません。さらに自然に消失する可能性が低いので、お尻以外の場所に青いあざがあって気になる場合は早めの受診をおすすめします」(西本医師)

【治療の一例】異所性蒙古斑レーザー治療前(日本医科大学武蔵小杉病院提供)
【治療の一例】異所性蒙古斑レーザー治療後(日本医科大学武蔵小杉病院提供)

 また皮膚がいちごの表面のようにモコモコと赤く盛り上がる乳児血管腫は、早く治療を受けたほうが、あとが残りにくいケースもあります。

「乳児血管腫は生後数日から数週間で出現して急速に大きくなっていき、6〜12カ月後にピークを迎えます。その後は5〜10歳ごろまでに自然に消えていくので治療は必要ないと言われてきました。しかし皮膚の盛り上がりが大きいと、赤みが消えたあとも皮膚のたるみだけが残ってしまうことがあります。ピークを迎える前に治療をしておくと、あとが残らないようにできる可能性があります」(西本医師)

 乳児血管腫の治療には、色素レーザーを使用する方法と「プロプラノロール(商品名ヘマンジオルシロップ小児用)」という内服薬を使用する方法があります。ヘマンジオルシロップは血管腫の増殖を抑え、皮膚が盛り上がらないようにする効果を期待できますが、高血圧の治療に使われていた薬を使用しているので、血圧を下げるなどの副作用があります。このため、1週間程度入院して副作用などの問題がないことを確認したのちに、約6カ月間服用します。

「通常は軽症であればレーザー治療、皮膚の盛り上がりが大きい場合はヘマンジオルシロップを選択します」(西本医師)

図版/日本医科大学武蔵小杉病院提供

■茶色いあざはレーザーの試し打ちで効果を見極める

 太田母斑、単純性血管腫は、ある程度成長してからでも、レーザ―治療の効果を期待できます。扁平母斑はレーザー治療が効くケース、効かないケースがあります。

「扁平母斑の場合は、試し打ちをおすすめしています。試し打ちをして効果があれば、繰り返し照射をしていきます。効果がない場合は手術で切除するという選択肢もあります」(西本医師)

 血管腫は色素レーザー、それ以外(太田母斑、異所性蒙古斑、扁平母斑)はQスイッチルビーレーザー、Qスイッチアレキサンドライトレーザーといったレーザー治療の種類があります。局所麻酔の場合は日帰り、全身麻酔の場合は入院での治療が必要です。

「レーザー治療というと、費用を気にされる保護者がいますが、生まれつきのあざのほとんどは、健康保険で治療可能です。乳児血管腫で使用するヘマンジオルシロップも2016年から保険適応となっています」(西本医師)

 子どもにあざがあったときにどう感じるかは、保護者によってそれぞれです。西本医師は生まれつきのあざに悩んできた高齢の患者にあざの治療をしたこともあるそうです。

「きれいになった皮膚を見て『母親からこんなふうに産んでごめんねと言われてきたから、こんなに簡単に消えるなら母が亡くなる前に治療して見せたかった』とおっしゃっていました。まったく気にしない方にとってあざは病気ではありませんが、悩んでいる方にとっては大きな問題です。そうした場合に医療がお手伝いできる場合もあることをぜひ知っていただきたいです」(西本医師)

(取材・文/中寺暁子)

【一覧】赤、青、茶…あざの種類と治療後の再発しやすさの違い (日本医科大学武蔵小杉病院提供)