河合優実(写真:アフロ)

 今期ドラマで、視聴率以上に世間をにぎわせているのは「不適切にもほどがある!」(TBS系)だろう。不適切発言連発の主人公が昭和から令和にタイムスリップするという荒唐無稽な物語を、ヒットメーカーの宮藤官九郎氏が軽妙なセリフと巧妙なストーリで構築。ネットフリックスなど配信系でも見られるとあって、SNSでは毎話終了後はお祭り状態になっている。

 そんな話題作でひと際存在感を見せつけているのが女優の河合優実(23)だ。80年代アイドル風のヘアスタイルや、セーラー服の上からスタジャンを羽織る昭和の女子高生ぶりがハマりすぎていて人気沸騰。その顔立ちから“令和の山口百恵”との異名まで生まれている。

 それにしても、なぜ今、河合にここまで注目が集まっているのか。民放ドラマ制作スタッフはこう語る。

「宮藤さんの脚本ではパワーワードが多く、セリフが面白いので芝居をやりすぎてしまいがちなのですが、彼女はその空気感を見事に咀嚼し、コメディエンヌとしての瞬発力を発揮しています。第1話冒頭で『起きろブス、盛りのついたメスゴリラ!』と主人公によって不適切な言葉で起こされるところから物語は始まるのですが、その受けの演技から素晴らしい。レトロな顔立ちでアンニュイな演技なので、不適切なワードを浴びせられても決して視聴者を引かせない。そのうえ、凛としたリアクションと口汚く応戦する芝居が本当にうまい。まだ23歳で平成生まれなのに、他の演者よりも昭和な雰囲気がジャストフィットしており、所作も含めて天性の才能すら感じます。今までは知る人ぞ知る存在でしたが、これからは間違いなく無視できない女優になっていくでしょう」

河合優実(写真:2022 TIFF/アフロ)

■学生時代から「大人計画」に心酔

 バラエティーやトーク番組にほとんど出演しないため、プライベートはあまり知られていないが、過去のインタビューなどによると、2000年に東京・練馬区で生まれた河合は、3姉妹の長女。父は医師、母は看護師という家庭で育った。

 週刊誌の芸能担当記者は言う。

「小学生時代からダンススクールに通い、高校は偏差値68の進学校に通っていたそうです。周囲から『山口百恵に似てる』と言われ、完コピして文化祭のステージに立ったこともあるとか。宮藤官九郎さんが所属する劇団大人計画の舞台に魅了され、大学は宮藤さんと同じ日大芸術学部に進学。18歳の時にドラマで女優デビューを果たし、日芸の演劇学科で学びながらさまざまな作品に出演し続けていました」

 転機となったのは、20年に大人計画の主宰である松尾スズキが作演出を務めたミュージカル『フリムンシスターズ』。長澤まさみ、阿部サダヲら大物俳優が出演する中で、河合は小さい役ながら、キャリア2年目でメジャー作品に抜擢された。

「大人計画に魅了されて芝居の世界に飛び込んだ彼女が、デビュー後まもなく松尾さんや宮藤さんの作品に常連女優として呼ばれたというのは、演技の実力はさることながら、作品を引き寄せる強運を持っているからでしょう」(同)

 現在は、オダギリジョーや光石研ら個性派俳優が多数所属する芸能事務所に名を連ねる。そんな河合について「すべてを兼ね備えている」と絶賛するのは映画ライターだ。

河合優実(写真:つのだよしお/アフロ)

■演劇界でもブレーク必至

「大役だけでなく、ワンポイントで存在感を示せる稀有な女優なので、今後も映画界で引く手あまたなのは間違いない。今回、『不適切〜』でコメディエンヌとしての才能も見せつけたことで、連ドラのヒロイン役やサブスクのドラマでも需要が高まるはずです。今後はどのタイミングで自分の代表作に巡り合えるか。事務所の先輩には串田和美さん、岩松了さん、長塚圭史さんら演劇界の重鎮も所属しているので、演劇界でもブレークするでしょう。大女優になる条件を兼ね備えているので、数年以内に彼女の時代が来るのはもはや決定事項と言っていいと思います」

 エンターテインメントジャーナリストの中村裕一氏は、彼女の魅力をこう分析する。

「彼女の連ドラ初主演作『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は個人的に23年のベスト1ドラマでした。同作品では、不器用かつ時には悩みながらも目の前の家族を精いっぱい受け止め、愛し続ける主人公を好演。原作者の岸田奈美さんを投影した七実というキャラクターに、さらなる魅力と生命を吹き込んでいました。ほかにも『17歳の帝国』や『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』シーズン2など、出演するドラマで爪痕を残していますが、今回これだけ注目されるとさまざまなオファーが舞い込んでくる、いや、すでにもう殺到していると思います。飾らないナチュラルなたたずまいが持ち味だと思うので、時代性や流行とは適切に距離を取りつつ、自分を見失わず着実にキャリアを積み重ねてほしいですね」

 業界人がそろって絶賛する河合の演技と将来性。これからどんな女優に成長するのか楽しみだ。

(藤原三星)