次世代ネットワークは「人口減少」や「環境問題」の打ち手につながる

――本書の最後では、インターネットの未来の姿として「10年後のネットワーク」にも触れています。ネットワーク技術の進化は、私たちの暮らしをどのように変えるのでしょうか。

谷脇 現在、私たちが使っているのは「5G」と呼ばれる第5世代のネットワークです。「5G」の特徴的な機能として「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」が挙げられます。その「5G」を発展させた次世代ネットワークとして「Beyond 5G」があります。「5G」をさらに高度化させつつ、「拡張性」「自律性」「超低消費電力」といった機能を備えたものです。

 たとえば、次世代ネットワークの範囲は水中や地底、宇宙といったエリアにまで拡大していくと言われています。これにより、海洋資源や鉱物資源の探索等が大きく進むものと期待されています。また、日本が人口減少という大きな課題を抱える中、これまで技術者の努力によって構築されてきた通信ネットワークの領域にAIを活用し、自律的にすべて自動で設定を行う試みも始まっています。

 すでに高速道路やトンネル、橋、下水道といったライフラインを維持する「スマートメンテナンス」といった取り組みも始まっています。従来、技術者が目視や打音検査といった方法で行っていた点検だけでなく、センサーを活用して客観的な情報を取得したり、センサーを使って収集したビッグデータをもとにデータに基づいたメンテナンスを実施したりすることで、効率的な補修を進めているのです。デジタル技術を使って省力化をはかりつつ、同時にビッグデータを活用し匠の技を継承するトレンドは加速していくでしょう。

 さらに、環境問題の観点から、通信業界における電力消費量削減も喫緊の課題です。現状のままでは、2030年には「通信業界の電力消費量」が「現在の日本全体で使われている電力量」の約1.5倍になると言われています。そこで、2030年には通信業界の電力消費を現在の100分の1に抑制することを目指して技術開発が進められています。

――これからの時代、組織の変革を牽引するリーダーたちは、インターネットの進化をどのような目で見ていけばよいでしょうか。

谷脇 デジタル技術が進化することで、効率化、自動化、最適化だけでなく「個別化」といった新たな価値が生み出されます。個別化が進めば、一人ひとりの利用者に寄り添うことで、個々の状況、要望に合った“優しいサービス”の提供が可能になります。また、細かい作業を自動化することで、余った時間を人間同士の心のこもった交流の時間に充てることができるようになります。このように考えると、デジタル技術によって「人間らしさ」や「豊かさ」を生み出すことができますよね。

 デジタル技術は無機質の象徴のように思われがちですが、決してそんなことはありません。人間が本来もつべき豊かさや優しさ、多様性をどのように実現するかに役立てるべきです。インターネットが「便利なもの」というレベルを大きく超えて、社会経済の基盤インフラにまで成長しているからこそ、「人間のためのインターネット」を追求しなくてはいけません。そして、インターネットが世界の混乱や脅威を生むのではなく、各国で続く紛争をなくすための技術として機能することが大切だと考えています。

(三上 佳大)