6日に開幕した第105回全国高校野球選手権記念大会、通称「甲子園」。時代は変わり、昔のような“根性論”が見直されつつある現代、今夏は記録的な暑さが続いていることもあり、酷暑の中で全力プレーをする選手に対して「危険だ」との指摘も多い。現に、開幕戦の第1試合、土浦日大(茨城) vs 上田西(長野)では選手が足をつり、担架で運ばれるシーンも見られた。元メジャーリーガーの松井秀喜氏が「酷暑の中での過密日程は選手の大きな負担になっている。甲子園は2部制にしたらどうか」「高校生がふらふらになりながらやって、それが美談としてドラマチックに扱われることに違和感がある」などとスポーツ紙で語ったこともあり、本格的な高校野球変革時代に突入していくのかもしれない。実際に、数年前から「甲子園は不要」と考えるプロ野球関係者も少なくない。一方で、「甲子園は本当に特別な舞台」と語る元甲子園出場球児もいる。両者の声を紹介したい。

球団関係者が明かす「甲子園の弊害」

在京球団の関係者はこう話す。

「当然、スカウトは甲子園だけで判断はしません。スカウト会議で自分が“推す”選手を、練習から練習試合、地方大会、そして監督から聞く日頃の生活態度といったほぼすべてを見ている。選手が3年になり夏の地方予選が始まる頃には、評価はほぼ決まっていると言っていい。後は他球団との情報合戦で、例えば〈この選手は3位でとれそうか?〉〈2位じゃないときついか?それだと、フロントはどう判断するか?担当選手の魅力をそう説得するか?〉と考えていく。だから、甲子園は正直、評価の場としてはあまり意味がないんです」

別の球団関係者も同様の意見だ。

「ほとんどの関係者が思っていることでしょうね。〈頼むから、あの選手を酷使しないでくれ……〉と。ただ、高校生にとっては憧れの舞台。こちらも〈出ないでくれ〉なんて言えない。ただ、監督に対して“さらっ”と圧をかけているスカウトは何人かいますが(笑)」

さらに、別の球団関係者は具体的な「甲子園の弊害」を口にする。

「今も現役プロだが、甲子園の舞台で消耗し過ぎた結果、プロで思うような成績を残せていない…と考えられる選手もいる。投げすぎて、高校時代より明らかに球速が落ちたり、変化球の精度に成長を感じなかったり。すべてが甲子園のせいというわけじゃないが、炎天下でプレーをするということはそれだけダメージが残る危険があるのは事実。私は甲子園完全否定派と言っても良い」

しかし、これはあくまでプロ目線の意見だ。

数年前、実際に甲子園に出場したという男性(20代)は話す。

「3年生の時にレギュラーになって出場しました。すぐに負けましたけど、やっぱり地方大会の球場とは全く違う迫力があって、僕は〈仲間と“ここ”を目指してきて本当に良かった〉と素直に思いました」

甲子園は「先がない人のための大会」という現実

前出の甲子園出場経験のある男性は続ける。

「僕は高校卒業後に大学でも野球をやり、一般企業に就職しました。今は草野球しかやっていません。わりと強豪校だったため、ほとんどのメンバーが大学や社会人野球の世界に進みましたが、プロには行けなかったんです。もちろん、みんなプロを目指してはいるんですよ。だけど、〈俺じゃ無理〉ってことも、他の学校の凄い奴らを見ていれば自然と分かってくる。それでも、〈プロに入りたいから甲子園に行きたい〉〈甲子園に出たら必死にアピールしたい〉と考える。結果的にプロの壁は高かったけど、あそこで全力プレーができたことだけでも満足できて、自分にとって大きな財産になるんです」

甲子園よりも地方大会の球場の方が暑かった(笑)

そして彼は「だから、先がない人のための大会として“今の甲子園”を残してほしい」と力説する。

「松井秀喜さんの意見はごもっともですが、選手はあの場所とあの雰囲気で、夏にやるから意味があって、ある程度可能性のある高校の選手はみんなそこを目指している。もう、聖地になっているじゃないですか。それがいきなり東京ドームで開催とか言われても、選手は白けてしまうと僕は思います。もちろん、選手の将来を考えてというのは分かります。だけど、たとえ大学や社会人に行っても、ほとんどがプロになれないという現実がある。野球というジャンルでは“先がない人”が躍動して、誤解を招くかもしれないけど〈死ぬ気でやる〉。そして、それが最高の思い出になる…そんな場として今の甲子園を残してほしいなと感じます。ちなみに、今は違うかもしれませんが甲子園はわりと風があって涼しかったです。地方大会の決勝戦の方が、よっぽど倒れそうになるくらい暑かった(笑)」

しかし、実際に熱中症で複数の死者も出ている「殺人的酷暑」の時代という現実もある。

プロ関係者と選手たち。双方が納得する形での変革が実現できると良いのだが。

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