“18奪三振”で完投勝利

 選抜高校野球に出場できなかった選手に逸材がいる――。筆者は全国で行われている地方大会の取材を重ねており、スカウト陣に話を聞く機会が多い。今年の選抜に未出場でも、特にプロからの注目度が高い3選手について、実力や将来性を分析してみた。【西尾典文/野球ライター】

 投手で真っ先に名前が挙がるのが、198cm、108kgという日本人離れしたスケールの大きさが魅力である、知徳のエース小船翼だ。

 入学直後に最速で130キロ程度だったストレートは、順調にスピードをアップさせ、昨年秋に150キロに到達した。今年最初の公式戦となった3月31日の御殿場西戦では、初回に自己最速を更新する151キロをマークすると、終盤まで140キロ台後半のスピードを維持。18奪三振、自責点0、2失点で見事な完投勝利を飾っている。

 投球フォームはテイクバックで右肩が下がり、そこから体が沈み込むなど無駄な動きも大きく見えるものの、リリースの感覚は良く、コントロールも決して悪くない。何よりもこれだけの大型投手で、150キロに迫るスピードボールを1試合通じて投げられるというのは、只者ではない。

 キャッチャーが2年生ということもあって、そのスピードと鋭く変化するボールに苦労しており、走者を背負うと落ちる変化球を投げられないという点は気になった。だが、これは、キャッチャーのブロッキングがレベルアップすれば、さらにピッチングが安定するはずだ。

 また、ボールを後逸したキャッチャーに対して、小船は苛立つような様子を全く見せず、励ましている姿が印象的だった。御殿場西戦を視察したスカウトは「馬力が凄いですね。あまり投げられなかったですが、フォークも良かったです。いいものを見ました」と話しており、強いインパクトを残したと言えそうだ。

注目を集める「打てるショート」

 一方、野手では、花咲徳栄のショート、石塚裕惺に対する注目度が高い。昨年秋の関東大会では、2試合で6打数5安打を記録し、初戦の横浜戦では特大のホームランを放っている。4月4日から6日まで開かれたU18侍ジャパンの強化合宿に選出されると、フリーバッティングでは、木製バットで軽々とフェンスオーバーの打球を連発し、長打力と対応力の高さを見せた。

「もともとパンチ力はありましたが、冬の間に体が大きくなって、さらにパワーアップしましたね。木製バットに苦しむバッターが多いなかで、全くそんな様子はなく、バッティングは(合宿の参加選手の中で)頭一つ抜けていると思います。ショートの守備は、動きにもう少し柔らかさが欲しいところですが、肩の強さが目立ちました。体が強そうなのもいいですね」(合宿を視察したセ・リーグ球団スカウト)

 今春の練習試合は、木製バットではなく、反発力の弱い新基準の金属バットを使っており、強化合宿に参加するまでに既に4本のホームランを放ったという。選抜高校野球では大会を通じて3本しかホームランが出なかったことを考えても、石塚の長打力が抜きに出ていることがわかる。プロから人気になりやすい「打てるショート」は、今後も高い注目を集めることは間違いない。

バッティングは関東全体でもトップクラス

 野手でもう1人、スカウト陣から頻繁に名前が聞かれるのが、桐朋の森井翔太郎(遊撃手兼三塁手)だ。桐朋は、東京都内の有名進学校であるが、野球部は目立った成績を残していない。

 森井は、早くから頭角を現して、昨年夏の西東京大会、東海大菅生戦では日当直喜(現楽天、2023年ドラフト3位)からヒットを放っている。筆者は、昨年秋の東京都大会ブロック予選の対新宿戦で、森井のプレーを初めて見た。楽に振っているようでも打球が軽々と外野の頭を超えるバッティングは見事だった。さらに、投手を兼任しており、練習で151キロをマークするなど、肩の強さも魅力的だ。

「最初に見た時はこんな選手がいるのかと驚きました。楽しみという次元ではないですね。上に勝ち進むような強いチームではないので細かいプレーとか、少しバットが外から回るなどは気になりますが、バッティングに関しては東京だけでなく関東全体でもトップクラスだと思います。肩も強いですし、ショートは難しくてもサードなら十分上のレベルでやれるだけのものは持っています。本人も進学ではなく、プロ志望と聞いています」(パ・リーグ球団スカウト)

 春の東京都大会は2回戦で敗れ、残す公式戦は夏の西東京大会だけとなった。そこでどんなプレーを見せてくれるかが楽しみだ。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部