新卒、約25%の企業がジョブ型採用

 日本では数年前から「ジョブ型採用・雇用」(職務内容と求めるスキルを限定して採用する雇用形態)についての議論や導入が話題となっていた。

 キーワードの検索トレンドを調べられるグーグルトレンドなどを見ると、2022年頃のピークの

「4分の1程度」

の検索数になっており落ち着きを見せている。

 それでは、ジョブ型採用・雇用の現状はどうなっているのだろうか。中途採用では、職種別採用が当たり前になっている。では、新卒採用はどうかというと、リクナビやマイナビなどの新卒メガ採用サイトが2024年3月にグランドオープンし、2025年の新卒採用はすでに山場を迎えている。

 さまざまなアンケート調査を見る限りにおいては、

「約25%」

の企業が新卒採用においてジョブ型採用を導入している。これを多いと見るべきか、少ないと見るべきか。

メーカーにおけるジョブ型採用

 実際の例でいうと、モビリティ業界においては、トヨタ自動車の新卒採用のページは、

「自ら主体的にキャリアを選んでいただけるように、初期配属にてコース・本部を確約する採用を実施」

とある。現時点では「初期配属」に限り、その後は総合職的なローテーションも考えられるようだ。

 また、ほかのメーカーでは、日立製作所が2022年度の新卒と中途採用のうち9割は「ジョブ型雇用」を適用すると発表し、技術系職種では、一部のジョブを対象に学歴別一律の初任給額ではなく、対象者の

・技能
・経験
・職務内容

などを考慮した、個別の処遇設定を可能にしたのが記憶に新しい。

 ソニーはよく知られている通り、およそ100コースも分類を設けている。

ジョブ型採用・雇用のイメージ(画像:写真AC)

原因は職務の専門化・複雑化

 このようにメーカー各社においてジョブ型採用が徐々に一般的になってきているのは、まず世の中全体がそれぞれの職種において専門化が進み、それに応じて新卒学生も深めた専攻を生かしたい人が増えているからであろう。

 近年の個々人のキャリア意識の自立を目指した教育のたまものでもある。さらに特に自動車業界においていえば、自動車の機構が長年かけて、機械から電気・電子に変化し、最近ではソフトウエアによるものとなってきており、それに対応して、必要なエンジニアの専門領域も変わってきている/複合的になってきていることの影響も大きい。

 具体的にいえば、同じエンジニアでも、機械や電気などのハードウエア領域と、ソフトウエア領域では仕事の性質も向いている人も異なる。

 ハードウエアでは具体的な形があるものを作るので物理的制約条件のなかでいかに作るかが大きな問題だが、ソフトウエアはそれほど制約はなく、むしろ自由な発想を広げることが重要だ。

 実際に作るものもハードウエアでは想定したものが製造過程を経て想定した通りにできるかわからず、机上の空論とならないよう、製造との密接なやり取りやすり合わせが必要だが、ソフトウエアでは考えたものが製造という別人によるプロセスを経ずにそのままブレなくアウトプットとなることも多い。

ジョブ型採用・雇用のイメージ(画像:写真AC)

「パーソナリティー」の重要性

 このように職務上で制約条件や他者とのすり合わせの大小が変化すれば、そこで求められるパーソナリティーも当然変化する。

 ジョブ型採用は、技術や知識の専門性のみに焦点が当たることが多いが、実はその背景にひもづいて、求める人物のパーソナリティーの変化がともなっている。

 例えるなら、臨床医には、

・手先の器用さや患者の発する非言語手がかりの理解力
・緊急時に対する度胸や情緒の安定性

などが本当は必要なのに、

「理系科目が得意だから偏差値の一番高い医学部に行く」

というケースがあるようなことになってしまってはいまいか。大学で機械工学を学んでいたからといって、製造担当者とのすり合わせにたけているかどうか、細かな制約条件に合わせる厳密性を好む性格かどうかはわからない。

 ジョブ型採用をすれば、仕事や部署や働く地域を社員個人に確約するわけなので、当然ながら社内における人材の流動化はしにくくなる。100ものコースに細分化するのであれば、それぞれに最適な人材を採っておかなければ、後で

「ここではあなたは少し向いていないようだから、別のところに異動してください」

とはできない。

 そうすると、もしも不適合があったならば、そのままローパフォーマンスのまま置いておくか、転職などを促してもっと適所に自ら移ってもらうしかない。逆に採用する方も新卒比率を下げ、オンデマンドで適した人を採用する方式に変えていかねばならない。社外流動性を高めるしかないのだ。

企業ビル(画像:写真AC)

人材マネジメントとの関係性

 これまで長期雇用を前提として人材マネジメントを行ってきた日本の多くの製造業に、これが本当にできるか。

 東洋経済の「平均勤続年数が長く新卒でないと入りにくい会社」ランキング(2020)を見ると、トヨタ自動車は新卒採用占有率(年間の採用者数のうちの新卒比率)が

「96.0%」

とまだまだ中途採用比率は低く、社外流動性の低さがうかがえる。もし、社外流動性を高めることが難しければ(文化の浸透を考えれば、そもそもするべきかどうかも疑問だが)、ジョブ型雇用において小分けに採用した分、それぞれに最適な人材を選ぶために、先に述べたパーソナリティーの精緻な評価をするしかない。

 ジョブ型採用をすれば、今時のキャリア意識の高い若者は採用しやすいが、そこで

「パーソナリティーのミスマッチが起こるリスク」

を取るのか、ミスマッチは前提として

「社外流動性を高める人材マネジメントポリシー」

にするのか、いずれにせよ、ジョブ型採用を行う上では慎重に検討すべき事項である。