過疎化と高齢化が進む「限界集落」の長崎県五島市戸岐町半泊地区に、民間の主導で新たな浄水施設が完成した。発展途上国で使われている浄水装置を国内で初めて導入した。安全な水が供給されることになり、住民らは「集落再生の一歩になる」と歓迎している。
 半泊地区は山と入り江に囲まれ、豊かな里山が残る。現在5世帯6人が暮らす。以前から営業している民宿に加え、近年はクラフトジンを製造する「五島つばき蒸留所」のほか、廃校を活用したユニークな宿泊施設「めぐりめぐらす」もできた。地域には少しずつにぎわいが生まれ始めている。
 半泊地区の住民は長年、山あいの3カ所の水源から引いた水を、共同で整備した簡易な浄水施設で処理して水を賄ってきた。取水する場所は道も険しく管理にも一苦労。取水地そばのろ過・貯水装置は老朽化し、改修や水の安定供給が課題となっていた。
 このため、アフリカや東南アジアで導入されている浄水装置を、ヤマハ発動機(静岡県磐田市)が、国内初のモデル事業として提供することにした。
 装置は高低差を生かして取水。送水の際に使うポンプの電源は主に太陽光発電を活用する。小型でメンテナンスも簡単とあって、住民が自主管理しやすい設計という。水は砂と砂利を通して時間をかけてろ過。塩素の代わりに紫外線で殺菌し、水本来の味を損なわないようにしている。
 半泊地区には2022年9月に設置。ヤマハ発動機が1カ所の水源で実証実験を重ね、保健所の水質検査をクリアした。「めぐりめぐらす」の運営企業「MONTE CASA(モンテカーザ)」(五島市)が19日から運用を引き継ぐ。
 9年前に東京から移住したモンテカーザの山家正社長(39)は「水確保に苦労されてきた住民の方々に敬意を払い、集落の再生につながるように尽力したい」と話す。
 半泊地区で生まれ育った半泊シズエさん(87)は「甘みのあるおいしい水が自慢。昔から使っている施設は、いつ使えなくなるか心配していた。新しい施設ができて安心」と喜んでいた。
 実証実験に携わってきたヤマハ発動機海外市場開拓事業部の明樂知浩主務は「今後も実証を重ねながら、ほかの非給水区域や、さまざまな条件下での導入を模索していきたい」と意欲を見せる。
 当面は従来の装置と併用しながら1世帯3事業所向けの供給から始める。今後、水の需要を見極め、住民の要望を聞きながら、タンクを増設したり、給水先を増やしたりする計画だ。