ここ1、2年、父親を失った20〜30歳の数人の若者が診察室に受診してきました。明らかにうつ状態のサインはみられますが、最初は何事もないかのように思えました。しかし、家族のことを尋ねると、急に涙ぐんでいきました。

 私は、かつて、大学で教育改革の議論を深めてきた物理学の先生と親しくなりました。残念ながら、彼は胃がんで亡くなりなりましたが、その息子さんのことを思い出しました。高校に通うことができなくなり、私の診察室に数回受診し、退学を決めました。高卒資格認定試験には合格し、京都で浪人しました。経済的にも大変だったと思います。亡き父は、京都大の物理の出身でしたので、父親を目標に頑張りたいと述べ、寮生活になりました。

 1年後、京都大は難しかったのですが、早稲田大の物理に合格し、東京へ行きました。しかし、父親が学んだ大学のことを忘れきれなかったようでした。幸いなことに、今年、京都大理学部に合格したといううれしい知らせが届きました。妹さんも京都大総合人間学部に合格。父親の死という最悪の環境の中で、立派な結果を示すことができたことは、定年退職後の私にとっても元気と勇気と励みをもらいました。お母さんも、大変な努力をなされたことでしょうね。

 父親を亡くし、落ち込んでいる若者たちにも、こんな立派な仲間がいるんだよ、前向きに生きていこうというメッセージを送ることもできました。おめでとう! ありがとう!

 (はーと・なう心療クリニック、九州大学伊都診療所 佐藤武)