「エル・ラルゲロ」(スペインの人気スポーツラジオ番組)の出演中に、私の記事が原因で不機嫌になったことがある人はいるかと聞かれ、「シャビ」という答えを導き出す自分の姿を想像してワクワクした。

 自分では手に負えなくなる突然の自己重要感の発作が原因で、虚言をコントロールできないわけではなかった。不意に答えは「シャビ」でも、「ケイト・ミドルトン」(キャサリン皇太子妃)でも同じじゃないかという声が脳内で聞こえてくる。

 このような嘘をでっちあげる理由を考えてみたが、自分を生贄にすること以上のことは思いつかない。いや、私はそれほど正気を失ってはいなかった。ワクワクした気分で正気を失うことができるのなら、そうしたいのだが。

 全くワクワクできなかったのは、私が「シャビ」と答える情景を思い浮かべて、彼が私に直接メッセージを送ったと推測するのが本来は一般的だと観察することだった。実際はそうであってほしかったが、起こったことはもっとヒドいことだった。

 もし彼が私に直接メッセージを送っていたら、これから記すことを決して公にすることはなかっただろう。その種の電話は、私の職業では週に3回はある。ある人があなたの書いた文章に腹を立てたり、喜んだりして、あなたの連絡先を手に入れ、あなたに知らせる。
 
 それを丁寧に伝えるのが読者の上品さであり、自分の書いた文章がそうした結果をもたらし得るものと割り切るのは記者の上品さだ。上品でなかったのは、私が2018年に『シャビのテクノロジー』という美しく年を重ねる選手に関する記事が配信された際にシャビが行ったことだ。

 数人の同僚に苦情を言い、その同僚は私の所属する部署の編集長にそのまま伝えた。そんな中、編集長がしたことは、その記事は内容的に素晴らしく、その日、最も読まれた記事だと知らせるために私に電話をかけることだった。

 私はその出来事が重大なことだとは思っていなかったし、実際、これまで公にすることもなかった。そもそも私の執筆スタイルの代償としてクレームは日常茶飯事だ。

 だからクビにしろと言わなかったし、記事を取り下げてほしいとも思わなかった。結局のところ、シャビは自分が受けるべき扱いを受けていないことに腹を立てた選手の1人に過ぎなかった。
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 それから私はこのことをすっかり忘れていた。思い出すきっかけを作ったのは、バルサがチャンピオンズリーグのラウンド16を突破した後、記者会見で、歴史的勝利を祝うだけでなく、ラモン・ベサの顔に泥を塗った彼の行為だった。

 そもそもシャビはその記事(タイトルはシャフタールに敗れたバルサはヨーロッパの大馬鹿者)を読んでいなかった。筆者のラモン・ベサの批判の矛先は、現チームよりも、シャビが監督に就任する前に、欧州カップ戦で失態を演じた近年のチームにより向けられていた。シャビの底意地の悪さは、私にとっては馴染み深いものであり、6年前の私の記事を巡る怒りのメッセージ、扇動的な主張を思い起こさせた。

 シャビと記者の問題は、マスコミとスペイン代表との不健全な関係の産物だ。取り巻き連中のシンボルを守りたいという過度な意識が、自分たちはアンタッチャブルな存在と思い込む人物を作り上げた。
 
 シャビが現役時代のそうした経験から、監督に転身した後の扱いの変化に困惑するのも無理はない。「エル・ラルゲロ」に出演した翌日、電話口でエドゥ・ポロ(元ムンド・デポルティーボ記者)が「今シャビのために働いている」と語り、その直後に今度は私が「エル・パイス」に電話したのは、エドゥ・ポロの責任というよりも、ピッチで起こっていることよりメディアで報じられていることをチェックすることに熱心なバルサというクラブの体質のせいだ。

 だから私には不思議だった。エドゥ・ポロがシャビが苦言を言った記者の名前を尋ねたとき、私が「覚えていない」と答えた時の彼の反応に対してだ。もちろん覚えているよ、エドゥ。でも、仲間を売ったり、プライベートな会話の内容をリークしたり、誰かの仕事について会社に苦情を言ったり、記者会見で記者を指弾したりはしない。

 もちろんするかどうかは全て本人の意思次第だ。それでも私は気に留めていなかった。そうだからこそ、この6年間、別の仲間が犠牲になるまで公にしなかった。そして私はそれをしないほうが良いことを理解している。

文●マヌエル・ハボイス(エル・パイス紙)
翻訳●下村正幸

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