CS映画専門チャンネル「ムービープラス」では、バットマンの生誕85周年を記念した「DCヒーロー特集」を企画。バットマン映画の最新作『THE BATMAN-ザ・バットマン-』の放送を皮切りに、3月16日(土)〜17日(日)、25日(月)〜28日(木)の間、計7作品が放送される。「バットマンって85年も前からいるの?」と驚いた人も多いかもしれないが、じつはバットマンはスーパーマンとほぼ同時代に生まれたアメコミ最古参のヒーローのひとりだ。ちなみに「DCヒーロー」と聞いて、ほかに誰を思い浮かべるだろうか? スパイダーマン? アイアンマン? いやいや、彼らは「DCヒーロー」ではなく「マーベルヒーロー」だ。だが無理もない。ヒーローの所属をしっかり区別できる人のほうがむしろ少ないだろう。そこで今回は、「DCヒーローとは何か?」をざっくりと説明したうえで、看板キャラであるバットマンとスーパーマンのふたりを深掘っていこう。これさえ読めば、2大DCヒーローの華麗なる活躍の歴史がわかること間違いなしだ。

■スーパーマンとバットマンは真逆のヒーロー!?

そもそも「DCヒーロー」とは、アメコミ(アメリカン・コミックス)の2大レーベルのひとつ「DCコミックス」出身のヒーローのこと。ちなみにもう一方のレーベルは「マーベルコミックス」で、つまりは出版社が違うというわけだ。どちらも数多くの人気ヒーローと映画作品を生み出しており、何かと比較されることの多い両レーベルだが、じつは歴史的にはDCのほうが少しだけ古く、スーパーマンは1938年、バットマンは1939年にそれぞれ誕生している。マーベルの最古参ヒーローは1939年に誕生しているので、少なくともスーパーマンについてはアメコミ最古のヒーローと言えるだろう。またそのほかのDCヒーローには、アクアマン、フラッシュ、ワンダーウーマン、シャザムなどがいるが、ジョーカーやハーレイ・クイン、ブラックアダムなど、ヒーローと同じくらいに宿敵(スーパーヴィラン)の人気が高いのも、DC作品の特徴だ。そして、そんな個性あふれるDCヒーローたちのなかでもとくに高い認知度を誇っているのがスーパーマンとバットマンで、アメコミやヒーローに疎い人でも名前くらいは聞いたことがあるはずだ。DCの2大看板ヒーローと言ってもいいふたりだが、そのキャラクター性と魅力は真逆と言ってもいい。それぞれ詳しく見ていこう。

アメコミ最古のヒーローにして、“世界初のスーパーヒーロー”とも言われるスーパーマンの正体は、クリプトン星で生まれた異星人。赤ん坊の時に地球へと飛ばされ、クラーク・ケントとしてアメリカ人の夫妻に育てられた。表向きは新聞記者として働きつつ、正体を隠しながら裏で巨悪と戦い続けているというヒーローの鏡だ。田舎育ちゆえか、性格はかなり素朴でお人好しで、そこにつけ込まれて敵の罠に落ちることもたびたび。ヒーローとしての能力はトップクラスで、怪力、飛行能力、不死身、超速力、目から放つ熱光線など、挙げればきりがないほど。能力が十分に発揮できる環境でさえあれば、真っ向勝負で勝てる存在はいないと思われる。そんな無敵の強さと、それに反してちょっぴり天然なキャラクターこそが最大の魅力と言えるだろう。

一方、バットマンことブルース・ウェインは、スーパーマンとは違って普通の人間だ。だたここで言う“普通”とは、生物的に人間であるという意味で、肩書きや生い立ちは決して普通ではないことに注目。少年時代に目の前で両親を殺されたトラウマがあり、犯罪者を憎む気持ちが高じて全ての犯罪者と闘うバットマンとなったウェインは、表舞台の肩書きはゴッサム・シティの名家、ウェイン家の現当主であり、セレブなプレイボーイとして名を馳せているものの、その本質はどこまでもストイックで厳格。そんなバットマンの能力は、人間として極限まで鍛え上げた肉体と格闘能力に加え、豊富な資金力と技術力で開発した秘密兵器の数々だ。また判断力や洞察力など、あらゆる能力が限界まで研ぎ澄まされているため、規格外の能力をもつヒーローやヴィランを相手にしても負けることはまずない。人としての限界を突破せんとする鋼の意志と犯罪を憎むドス暗い感情は、闇に溶け込む漆黒のビジュアルもあいまって、ダークヒーローの代表格として根強い人気を誇っている。



■スーパーマンは初期4部作が原点、バットマンは監督ごとに多彩な作風

それぞれ長い歴史をもつふたりのヒーローだけに、これまで数多くの映像作品が発表されている。今回はそのなかから映画作品に焦点を絞り、その歴史を振り返っていこう。DCヒーローのなかで最初に映画化されたのは、やはりスーパーマン。今回の「DCヒーロー特集」にもラインナップされている『スーパーマン』(1978年公開)は、すべてのヒーロー映画の原点とも言うべき作品。これまで子供がターゲットだったヒーローを、全世代で楽しめる作品にするべく、脚本に『ゴッドファーザー』(1972年)のマリオ・プーゾ、監督に『オーメン』(1976年)のリチャード・ドナーを起用し、マーロン・ブランドとジーン・ハックマンという2人のオスカー俳優も出演させるなどして、アクション&スペクタクル満載のエンタメ大作として制作。スーパーマンの飛行シーンや怪力シーンなど、当時最高峰のVFXを駆使しており、特撮っぽさを感じさせない映像も人気が出た理由だっただろう。またスーパーマンを演じたクリストファー・リーヴもハマり役で、記者としてのやや頼りない表情から、メガネを外してスーパーマンに変身したときのカッコ良さは異常で、ヒーロー作品の醍醐味を世界中に知らしめた傑作だ。この成功がなければ以降のヒーロー映画の隆盛もなかったかもしれないことを考えると、本作が果たした功績はとても大きい。その後、リーヴ版のスーパーマンシリーズは『スーパーマンII 冒険編』(1980年)、『スーパーマンIII 電子の要塞』(1983年)、『スーパーマンIV 最強の敵』(1987年)と続き、ヒーロー映画として不動の地位を築くに至る。これらはまとめて初期4部作と呼ぶことが多く、今もなお金字塔として映画史に燦然と輝いている。アクションがさらに強化され、ストーリーも変化に飛んだ2作目、コメディを全面に打ち出した異色作の3作目、核兵器の根絶という平和へのメッセージ性を打ち出した4作目と、それぞれに異なる魅力が堪能できるのも楽しい。ムービープラスの「DCヒーロー特集」では、この初期4部作の字幕版と吹替版がどちらも放送されるので、ぜひ好きなほうでチェックしてほしい。スーパーマン映画としては、このあとも『スーパーマン リターンズ』(2006年)や『マン・オブ・スティール』(2013年)などがあるが、初期4部作を観ておけばまず問題ないだろう。

バットマン映画の歴史については、スーパーマンよりもやや複雑だ。そもそもDCヒーロー映画は、監督によって作品のカラーがガラリと異なっているのが特徴で、それが魅力でもある。まず最初は、90年代に作られたティム・バートン&ジョエル・シュマッカーによる4部作。マイケル・キートン主演の『バットマン 』(1989年)を皮切りに『バットマン リターンズ』 (1992年)、『バットマン フォーエヴァー』(1995年)、『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』 (1997年)と続いたが、途中で監督やスタッフ、主演俳優が変わったため、一貫性があるのは第2作まで。ティム・バートンが監督を務めたこの2作では、バットマンを徹底して孤独な存在として描いており、ジャック・ニコルソン演じるジョーカーの強烈なビジュアルも手伝って、ダークファンタジー作品として強烈なインパクトを残した。さらに2000年代に入ると、クリストファー・ノーラン監督による、“通称ダークナイト3部作”と呼ばれるリブートシリーズが公開。シリーズ史上最高傑作と評されることも多い3部作だが、今回「DCヒーロー特集」で放送される『バットマン ビギンズ』(2005年)こそ、その記念すべき第1作目である。バットマンの誕生へと至る秘話を、ノーラン監督らしいリアリティ溢れる映像で描き出した本作は、バットマン映画の入門編としても大いにオススメできる。そしてダークナイト3部作以降、約10年ぶりに制作されたバットマン映画が『THE BATMAN-ザ・バットマン-』(2022年)だ。ダークナイト3部作で打ちだしたノワール路線は踏襲しつつ、バットマンとなって2年目の若き日のウェインの姿を描いている。サスペンスやミステリー、スリラー要素が強調されており、謎を解いてゆく探偵映画としても楽しめるのが特徴で、全世界興収830億円越えの大ヒットを記録。本作も「DCヒーロー特集」にラインナップされており、これがCS初放送となる。

いかがだっただろうか。世のため人のため、つねに人間の味方として悪を懲らしめてくれるスーパーマンと、トラウマと負の感情を抱えながら葛藤し続けるバットマン。85年以上にわたって世界のトップヒーローの座に君臨し続けるその理由を、ぜひ「DCヒーロー特集」を通じて感じて欲しい。なお今回の「DCヒーロー特集」にはDC映画史上No.1の興行成績(11.52億ドル)を記録した『アクアマン』も放送予定なので、合わせて楽しんではどうだろうか。

◆文/岡本大介