しかし、その後、脳機能イメージング技術が進歩し、脳の働きを示す鮮明な画像を撮ることができるようになりました。そして、多くの新しい事実が発見されたのです。

とくに重要な発見は、勉強をすれば脳の細胞構造が変わっていくことです。つまり、脳に新しい情報を入れれば、脳は一生にわたって変化し続けるということが分かったのです。

この発見は、すばらしいものだと思います。脳がこのように変化することは、「神経可塑性」と呼ばれます。生物は、生きている限り新しい状況に対応して変化し続けるのですが、生物学ではこの性質を、「可塑性」と呼んでいます。脳はこのような変化が得意だということになるわけです。

脳の能力は向上し続ける

グリーン氏の記事によると、人間が生まれたときの脳細胞(ニューロン)には、2500本のシナプス(神経細胞同士が連絡する接点)があります。接続の数は、その後増えていって、3歳になると、約6倍、つまり、約1万5000本になります。

しかし、ここがピークで、その後は、シナプスの数は減っていくのです。このような過程を、「シナプス剪定」と呼んでいます。

シナプスの数だけからすると、人間の脳の能力は、3歳のときに一番高くなり、その後は、下がっていくように思えます。

しかし、実はそうではなく、シナプスの数が減るのは、必要なくなったシナプスを減らしていくことなのだそうです。ですから、脳の能力は、この後も向上し続けることになります。

実際、人間は、その後、さまざまなことを学び、またさまざまな新しいスキルを身につけます。そして、ニューロンも成長していきます。

ここで重要なのは、脳の細胞が情報を保存している期間によって、ニューロンの接続が変わるということです。短期記憶で情報を保存する場合には、すでに存在しているシナプスの構造が変化して、樹状突起が強くなったり、増えたりします。つまり、新しい接続を作らずに、すでに存在している接続を強めるのです。

それに対して、勉強して得た知識など重要な情報の場合には、その情報を応用するたびに、長い期間にわたってニューロンが新しい接続を作るのです。これによって、情報を長期的に保存し、一生使えるようにできます。これが、長期記憶です。

以上で紹介したグリーン氏の見解は、高齢者の勉強を激励する大変力強いメッセージです。