瀧教授は、また、好奇心が非常に重要な役割を果たすことを指摘しています。勉強を嫌いだと感じると、ストレスホルモンが分泌されて、うまくいかない。しかし逆に、勉強が好きだと考えると、記憶がより定着しやすくなるということになります。脳の働きをよくするには、運動することも重要です。散歩などの運動が、脳の働きを活性化してくれるそうです。

以上の研究成果を見ていると、脳の働きについて私たちが普段考えている内容は、間違っていることもあり、また正しいこともあることに気づかされます。

「歳をとれば脳の働きが弱まる」というのは間違った考えです。その反面で、「好奇心の強さが勉強を進めていく」というのは正しい考えです。

このような研究結果は、われわれが勉強を進めていく上で、励みにもなるし、またどのような方法で進めたらよいかという指針を与えてくれることにもなります。研究結果を参照することで、正しい方法で勉強を進めていくことができます。

歳をとらないと悪魔の言葉は分からない

人間は歳をとるほど賢くなるだろうとは、私はずっと前から信じていたことです。歳をとるほど経験が増え、知識も増えるからです。そして、『ファウスト』の中で、悪魔メフィストフェレスが、つぎのように言っているからです(注1)。

Der Teufel, der ist alt, So werdet alt, ihn zu verstehen!
(「悪魔は年寄りだ。だから、歳をとらないと悪魔の言葉は分かりませんよ」)

メフィストの言葉が正しいとすると、「若い人には世の中の仕組みは理解できない」ということになります。

ゲーテ自身も、エッカーマンとの対話で、「歳をとると、若いころとはちがったふうに世の中のことを考えるようになるものだ」と語っています(注2)。

私も、この歳になってから、やっと世の中の仕組みが分かってきたような気がします。ほんの少しずつであり、もちろんゲーテには及びもつきませんが、メフィストフェレスは及第点をつけてくれるでしょうか?

(注1)Johann Wolfgang von Goethe, Faust II, Vers 6815 ff

(注2)エッカーマン『ゲーテとの対話』(第2部1829年12月6日)、山下 肇訳、岩波文庫・改版、1968年