上に述べた信念を裏付けるもう一つの例を示しましょう。

1984年のアメリカ大統領選で、共和党候補はレーガン大統領、民主党候補はモンデール前副大統領でした。テレビ討論会で、ボルチモア・サンの記者がレーガン大統領に質問します。

「年齢の問題を争点にするつもりはない」

「あなたはすでに歴史上最高齢の大統領です。モンデール候補との討論の後、あなたは大変疲れた様子だったと、あなたのスタッフは話しています。ところで、ケネディ大統領は、キューバ危機の際に何日も眠れなかったそうです。そうしたことになった場合、あなたのように高齢な方は、激務に耐えられないということはないでしょうか?」

レーガンは、静かに答えます。「そんなことは決してありません」。ここで一息つき、深刻な表情で、つぎのように続けました。

「私は、年齢の問題を政治的な争点にするつもりはありません。したがって、私は、対立候補の若さと経験のなさを、政治的に利用しようなどとは考えていないのです」

会場は爆笑に包まれ、モンデールも思わずつられて笑ってしまいました(注)。

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レーガンは続けて、「セネカだったかシセロだったかが言ったとおり、シニアが若者を指導しないと、国家は成りたたないのです」と言ったのです(即興で、です)!

追い込もうとした記者は、レーガンに完敗しただけでなく、彼に政治的得点を与えてしまったのです。この選挙においてレーガンは、モンデールの地元であるミネソタ州を除く49州を獲得するという地滑り的・歴史的・大勝利を実現しました。

(注)このシーンは、下記で見ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=0RtXmnUe9s0

著者:野口 悠紀雄