茨城県つくば市にある、みどりの学園義務教育学校。ここは「義務教育学校」という小学校から中学校までの9年間を同じ学び舎で過ごす、全国でも珍しい学校だ。

【映像】義務教育学校の意外なデメリットとは?

 生徒数は9学年合わせておよそ1800人という大所帯。算数の授業を受ける6年生。その隣の教室には中学校1年生にあたる、7年生の教室が続いている。

 この学校では学年の段階を1年生から6年生までを「前期課程」。中学1年生に当たる7年生からの3年間を「後期課程」と区切り、教育を行っている。

 こうした義務教育学校では、「6年と3年」の2期で区切る以外にも、「4年―3年―2年」の3期で区切る学校もある。小学校、中学校という区切りにとらわれず柔軟なカリキュラムを組めるのが特徴だ。

 1年生の授業にお邪魔すると…1年生にパソコンの使い方を教える7年生。この学校では上級生が下級生にパソコンを教えるのが伝統だそう。学年の垣根を超えた交流によって、上級生には責任感が芽生え、下級生は上級生を敬うようになるなど、精神的な成長が育まれていくという。

 また、校舎や教員が別々な小中一貫校とは違い、9年間を同じ学校で過ごすため、教員間での情報共有もしやすく生徒たちに対する継続的な指導が可能になるという。

 今も音楽の先生として授業を行う山田聡校長は「義務教育学校で教える内容は一般的な小中学校と全く変わらない」としたうえで「6年生から7年生にスムーズに移行ができることが一番のメリットだ。いくつかの小学校から一つの中学校に集まるケースが多いが、本校の場合は一小一中でそのまま中で上がるため、その点において子どもたちのストレスはない」と語った。

 法改正によって、2016年から制度化された義務教育学校。学校数も徐々に増えはじめ、2023年5月1日時点で全国に207校ある。

 9年間の学びの連続性をいかした学校独自のカリキュラムも。みどりの学園義務教育学校では、プログラミングなどのICT教育を1年生から実施。この日は、6年生の生徒たちがロボットやドローンなど自分たちが作ったシステムを校長先生に披露していた。

 「いろんなプログラミング、アプリなどを使って、子どもたちは様々な体験をしている。中学生にとっては何気ないことでも、小学生にとっては一つひとつの動作が難しく、一つずつ丁寧に教えてあげる」(山田校長)

 魅力も多くある一方、生徒数が多すぎるがゆえに支援が行き届かない可能性があるなど、義務教育学校には課題も少なからずあると山田校長は話す。

 「その点を意識しながら先生方には指導に当たって頂いている。予測困難な時代の中、より自分で自分のことを発表・発信できるような、もっと探求できるような子どもたちになってほしい」

 教育経済学を専門とする、慶應義塾大学の中室牧子教授は義務教育学校について「海外で行われた研究によると、良い人間関係が小学校から中学校に継続すると子どもたちの学力は維持され、いじめ・暴力・不登校などの行動面への問題が小さくなるという。だが逆に、小学校で生じた人間関係の不適用をリセットできずに中学校まで持ち越してしまうリスクもある。もちろん、他の学校に移る選択肢もあるが、自分でそのことに気がつけなかったり、親の踏ん切りがつかないことも考えられる」と指摘した。

 さらに中室教授は「日本ならではの問題もある」と警鐘を鳴らす。

 「もし地元の公立の学校で合わなかった場合、海外の場合はオルタナティブスクールやホームスクーリングなどの他の教育の選択肢が幅広く用意されていることが多いが、日本はそうではない。義務教育学校自体は素晴らしいが“それ以外の選択肢”をもっと増やしていくことが重要だ」

 最後に中室教授は「最大の問題は義務教育学校に対するメリット・デメリットを定量的に検証していないことだ」と強調した。

 「このような新しい取り組みをする場合、海外では義務教育学校と普通の公立学校をきちんと比較して、学力・いじめ・不登校などについて数字で検証するが、日本では現場の先生や保護者の感想が広がっていく傾向にあり、改める必要がある」
(『ABEMAヒルズ』より)