後継者不在の中小企業の経営者らがM&A(合併・買収)の仲介を通じて売却した会社で、給与遅延や税金未納などのトラブルが相次いでいる。買い手は同一の法人グループで、一部の買収先では多額の現預金が買い手側に流出していた。政府は中小企業のM&A仲介を推進しているが、業界に潜む「構造的な問題がある」との指摘もある。

 朝日新聞の取材では、茨城県などに拠点を置く法人グループが2021年以降、10社を超える仲介業者を通じ、飲食店や建設業者など約30社を買収した。だが、多くの会社で資金繰りが悪化し、従業員の給与や取引先代金、融資返済、年金・税金などの遅延や未払いが多発している。買収先の多くで社長に就いた買い手の法人グループの代表(64)は昨年末から行方がわからなくなり、一部の会社が警察に被害の相談をしている。

 朝日新聞の集計では、買収先11社が営業停止となり、5社で倒産の手続きが進む。少なくとも百数十人が失職し、倒産先の負債総額は30億円規模に上る。買収時の契約で約束した経営者の個人保証の解除がされていない例もめだつ。

 一部の買収先から相談を受ける鈴木英司弁護士は「仲介業者が買い手に不審な点があると気づきながら、取引を急いだと疑われる事例もある。顧客の利益より取引成立を優先する構造的な問題がある」と指摘する。

 経営者の高齢化や後継者不足を背景に、M&A仲介は市場が広がり、仲介業者も急増した。ただ、資格や免許は不要で、ルールづくりは道半ばだ。売り手と買い手の双方から手数料を受け取る仲介業者は中立性を保つのが鉄則だが、どちらか一方に肩入れする利益相反の懸念も指摘される。(藤田知也)