2年連続王者の野尻智紀が、体調不良で欠場するという波乱の幕開けとなった2023年全日本スーパーフォーミュラ選手権第4戦オートポリス。その代役として、TEAM MUGENの1号車をドライブすることになった大津弘樹は、連絡を受けた19日(金)の夕方から、熊本へ移動。レースウイークで使用するレーシングスーツやシートの手配など、まさに分刻みで準備が進められた。

■代役打診は金曜16時。羽田で手渡されたスーツ

 野尻は第4戦オートポリス参戦のため熊本入りしていたが、体調異変により金曜昼に病院へと向かい、そこで肺気胸の診断を受けた。これを受け、チームが代役確保に動いたのだが、そこで真っ先に名前に上がったのが、大津だった。

 大津は、スーパーフォーミュラではHRCのリザーブドライバーという役割を担っており、第3戦鈴鹿ではABEMAでの生中継で解説も務めていたが、万が一の場合はレースを優先して良いという話になっていたという。

 今回も万が一に備えていた大津。「僕はリザーブドライバーという立ち位置だったのですけど、一昨日(18日/木曜日)の時点ではみんな元気で、現地から電話もきて『出番はないので、今週はゆっくりしてください』という話だったのですが……急きょ『オートポリスに行ってください!』という感じで、バタバタしました。改めて、そういう構えもしておかないといけないんだなと思いました」と、当時の状況を話した。

 すぐに熊本行きの準備に取り掛かった大津だったが、問題は最寄りの空港から熊本空港行きの最終便に乗れるか否かだったという。

「電話が来たのが、16時くらいでした。その時は外に出ていたので、そこからすぐに家に帰って準備しました。最終の飛行機が19時で、家から空港まで約1時間かかるので……なかなかギリギリでした。でも、なんとか金曜日の夜のうちに熊本に着くことができました」と大津。保安検査場を通過できたのは、搭乗締切時刻の約10分前だったとのことだ。

 さらに、代役参戦を果たすためには、大津のレーシングスーツと、専用に作られたシートも必要になる。ここも、チームの枠を超えた連携が実を結ぶこととなった。

「シートに関しては、ダンディライアンさんが持っていました」と語るのは、TEAM MUGENの田中洋克監督。3月の鈴鹿テストで、太田格之進の代役として、大津が6号車をドライブしたのだが、その時に使用していたシートを今回もチームが持ってきていたのだ。彼がリザーブドライバーという立場にあるため、万が一に備えてのものだった。金曜日のうちに、大津のシートはTEAM MUGENに渡され、事なきを得た。

 残るレーシングスーツなのだが、彼がレッドブルカラーのマシンでルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲得した2021年に使用したスーツを用意。これも、M-TECの工場にあるものをスタッフが運び、羽田空港で大津に手渡したのだという。これら各所での連携プレーにより、ドライバー変更発表から約半日後には、問題なく走行に漕ぎ着けることができたのだった。

■「昨年とは全然動きが違う」

 そんな大津だが、新車SF23はテストで一度経験しているものの、いざ予選アタックでペースを上げていこうとなると、苦戦した様子。午前のフリー走行では4番手と好タイムを記録するが、自身としても乗りこなせていない感触はあったようだ。

「走り出しは僕も慣れていなくて、速く走るためのスポットを見つけるのに時間がかかってしまったのかなと思います。そのなかでも、フリー走行の最後に向けて、いろいろと改善していたことは良かったですし、クルマの速さもそうですし、チームもクルマを作っていく強さも感じることができました」と大津。予選Q1のBグループで出走し、セクター1では全体ベストタイムを刻むものの、直後のターン8でリヤタイヤが滑り出してしまいスピン。スポンジバリアにクラッシュしてしまった。

「良い手応えを感じていたので、ちょっとしたミスがかなり大きかったです」と悔しそうな表情を見せた大津。気になる原因については、ある程度分析はできている様子だ。

「(SF23は)ダウンフォースの美味しいスポットが狭いように感じていて、そこを見つけるのが大変だなという印象があります。僕のスピンも、それが(原因の可能性が)あるかもしれません」

「フロントがちょっと急に巻き込むような感じで、その瞬間にリヤ(のグリップ)が薄くなって、リヤが流れた瞬間に『もう立て直せないな』というゾーンに入ってしまいました。速く走ろうとすると、そういうシビアさがあるなと思います。タイヤも含めて、昨年とはぜんぜん動きが違うなという印象があるので、そういうのも相まってしまいました」

 決勝は、最後尾からのスタートとなる大津。決勝レースに向けては「前回テストで乗った時に、ロングランは走っていなかったので、明日もどういう感じで走るのか……よくチームと話し合って、やっていきたいなと思います」と冷静にコメント。レースでの挽回も期待されるが、まずはSF23というパッケージを実戦で乗りこなすというところが、急務の課題となっているようだ。