いよいよ3月9〜10日に迫った2024年全日本スーパーフォーミュラ選手権の開幕。前年王者こそ不在ではあるものの、FIA F2王者から“現役女子高生ドライバー”まで、話題の注目ルーキーが参戦するほか、メーカー・チームを移籍したドライバーも多い。また、共通ダンパーが導入されることなどにより、これまでの勢力図が動く予感も漂う注目のシーズンとなりそうだ。

 ここでは2月21〜22日に鈴鹿サーキットで開催された公式合同テストを前にした『メディアデー』でのドライバー・監督らの発言をもとに、今季体制の変更点や注目ポイントなどをチームごとにまとめ、連載していく。

 連載最終回となる今回は、2023年にチームタイトルを獲得したTEAM MUGENだ。

■TEAM MUGEN 2024年スーパーフォーミュラ参戦体制

・ドライバー:岩佐歩夢(No.15)/野尻智紀(No.16)
・監督:田中洋克
・アドバイザー:武藤英紀
・エンジニア:小池智彦(No.15)/一瀬俊浩(No.16)
・エンジン:ホンダ/M-TEC HR-417E

・公式サイト
https://www.mugen-power.com/

■「もっと攻めるべきだった」昨年最終戦の反省

 2年連続でチームタイトルを獲得したTEAM MUGEN。2024年は新たに昨年のFIA F2ランキング4位となった岩佐歩夢を迎え入れ、16号車の野尻智紀とともにチームタイトル3連覇とドライバーズタイトルの奪還を目指す。

 昨年は自身のスーパーフォーミュラ3連覇をかけて最終戦まで戦うも、ランキング3位に終わった野尻。今年は「もちろんチャンピオンを目指していきます」と、王座奪還という目標だけを見据え、開幕に向けて準備を進めている。

 参戦車両がSF19だった頃は他を寄せ付けない強さをみせていたが、昨年から導入されたSF23では以前のようなアドバンテージが減っているようにも垣間見えた。特にチャンピオンがかかった最終戦ではレースペースがなかなか上がらず、宮田莉朋の先行を許す結果となった。

「(最終戦の時は)自分も知識や知恵もついてきた分『もうちょっとこうした方が良いのではないか』と思ったことが、だいぶコンサバティブな方向に行ってしまったところがありました。あそこはもっと攻めるべきだったのかと思います」と昨年の最終戦を振り返った野尻。

「パフォーマンスを出すためには、多少辛かろうが乗り越えなきゃいけない壁があるんだなと思ったので、今年は一瀬エンジニアが作ったクルマに文句を言わず乗ろうと……今は思っています」と、長年ともに戦っている一瀬エンジニアを頼りにしている様子だった。

 一方、今季野尻のチームメイトとなる岩佐は、F1参戦の可能性を広げるための1年にしたいと意気込みをみせている。その点で、昨年同じTEAM MUGENでデビューウインを含む3勝を挙げたリアム・ローソンの実績が、ひとつの指標となる。

「仮に彼と同じ成績になってくると、『本当にすごいのか?』という評価につながりにくいと思います」と岩佐。

「まずは結果としてシリーズチャンピオンというところを目指し、獲得していきたいです。そのときにF1に近づけるかどうかという流れの話になってくると思います。今自分がやるべきことはスーパーフォーミュラでチャンピオンを獲ることが一番重要だと思っています」と、F1へのステップアップをを強く意識している。

■坪井を意識する野尻。野尻を意識する岩佐

 今季のスーパーフォーミュラは、前年のランキング上位5人のうち3人が参戦しないという、過去にも例を見ないシーズンとなっている。今季警戒するライバルについて聞かれた野尻は、真っ先に「坪井(翔)選手です」と即答した。

 昨年はスーパーGT(GT500)でチャンピオンを獲得した坪井が今季スーパーフォーミュラでもTOM’S(VANTELIN TEAM TOM’S)から参戦するということに、野尻は強い警戒感を示した。

「坪井選手に関しては、日本の中で一番パフォーマンスが高いと正直思っています。手強い選手がすごく強い良いチームに移籍したなっていう思いがすごく強いです」と野尻。

「彼は(他車と)当たるとか、そういうミスをするというイメージが僕の中ではなくて、少し前にインタープロトでも(同じクラスで)一緒に出ていたりもしていて『ああいうふうに走りたいな』と思うようなレースの仕方をします。それでいてすごく一発の速さもあります。(TOM'S加入を聞いた時は)普通に(チャンピオンを)持っていかれるんだろうなと思いました」

 一方、日本のトップフォーミュラ初参戦となる岩佐はライバル視するドライバーやチームについては様子見という感じながらも、坪井と36号車パッケージは警戒しているのは確かで「やはり戦略とかいろいろな面がそろっていないとチャンピオンが獲れないと思うので、そこは注目しておきたい」と語った。

 さらに「間違いなく野尻さんのパッケージも強い」と岩佐。「最終的に僕はチーム内でワン・ツー争いをやり合えれば一番良いのではないかなと思っています。そうなるためには、まずはチームとしてみんなで強くならないといけないので……(野尻を見て)一緒にお願いします」と先輩に遠慮がちに声をかけていた。

 それに対して野尻は「やっぱりチャンピオン争いがかかって来ないと、チームスタッフ含めて面白みが全然違うと思います。まずは、そこにチームとしていけるように強いものを作らないといけない。当然、坪井選手たちにも負けていられないし、最後はここのふたりの仲が悪くなろうが、観ているお客さんが楽しいと思ってもらえるような最終戦を迎えられればいいなと思います」とタイトル獲得のためであれば、昨年のようにチームメイト同士のバトルもやむなしと考えている様子だった。

 現段階では、和気藹々とコミュニケーションをとっている様子の野尻と岩佐。ただ、昨年ローソンが参戦していた時も、チャンピオンがかかったシーズン終盤戦はピリピリした空気がチーム内に漂っていた感じがある。

 それをマネジメントする立場にある田中監督は「基本はふたりに対して“ファースト”“セカンド”というのはなく、普通にバチバチで戦ってもらうというのが基本的な考えです。だから、オーダーを基本的に出したくないというのがチームの方針です。ただ、シリーズタイトルという部分では、当然チームとして獲りにいかなければいけないので、本当に難しい局面になったら当然チームオーダーは出します」と、現時点でのTEAM MUGENとしての考えを示している。

 加えて、「『事前にこれは言わなくても分かってくれているだろう』と思った中で、いろいろと予想外の展開も起きたりしたので、今年は昨年の反省も踏まえて、言わなくて後悔するよりもきっちりとドライバーとエンジニアに(方針などを)伝えていきたいなと思います。そこが本当に大事だなと昨年感じました」と、昨年の経験も活かしていきたいと語った。

 今年も間違いなく本命視されるであろうTEAM MUGEN。開幕戦からどのような戦いぶりを披露してくれるのか、目が離せない。