◇記者コラム「Free Talking」

◆入場シーンにらしさ

4万3000人の観衆から大ブーイングをもらって不敵に笑い、うなずく姿を記者席から眺めて「さすが」とつぶやいてしまった。6日の東京ドームでのボクシング世界戦。元世界2階級制覇のルイス・ネリ(29)=メキシコ=の入場シーンのことだ。

 メインで4団体統一スーパーバンタム級王者の井上尚弥(31)=大橋=に挑戦し、1回に井上尚にとってプロ初となるダウンを奪って会場をどよめかせた。その後は持ち直した王者に圧倒されて3度のダウンの末、6回TKOで散った。過去に日本で起こしたドーピング陽性騒動と体重超過もあり、悪童の異名もあるメキシカンは、これからどこへ向かうのだろうか。

◆クレバーになって戻る

 敗戦から一夜明けた7日、自身のX(旧ツイッター)を更新。大一番を前に、年内での引退をほのめかす言動もあったが「ここで終わらない。より強く、クレバーになって戻る」。さらに、階級アップを予告する具体的な投稿もあった。

 「Adios(さようなら)122」と「126」に続けて両拳の絵文字。122はスーパーバンタム級のポンドでの体重リミット(55・34キロ)。126は1階級上のフェザー級の上限(57・15キロ)と重なる。

◆ブーイングから拍手に

 さらに注目したいのは、試合直後のWBCのマウリシオ会長の動向。ネリの控室を訪ね、Xで健闘をたたえるコメントを残した。WBCの本部はネリの母国メキシコ。2018年3月に体重超過でWBCバンタム級王座を剥奪されたが、次戦で同級シルバー王座決定戦が組まれた過去もあり、優遇ぶりは明らか。早々に3階級制覇のチャンスをつかむかもしれない。

 井上尚との再戦を期待するのは非現実的だが、逃げない戦いぶりで日本のファンの見方は変わった。試合後はブーイングから一転、拍手に包まれたネリ。確かな実力を誇示したからこそ、挑発などで貫いた悪童路線が、ドーム決戦の最高のスパイスになった。(ボクシング担当・志村拓)