地元はもちろん近隣の湘南エリア、さらに都内からもわざわざ訪れる人が多いベーカリー「Boulangerie Yamashita(ブーランジェリー ヤマシタ)」。生い茂る木々に囲まれた一軒家で、オープンの時間が近づくとお店の前に続々とお客さんが集まってきます。奥にはイートインができる食堂もあるので、丁寧につくられたパンの美味しさに触れながら心温まるひと時を過ごしてはいかがでしょうか。

訪れてよかったと思えるとっておきのベーカリー

青色の引き戸が目印の「Boulangerie Yamashita」。美容室を改築したというお店の棚にはバスケットに入った朝焼きのパンがぎっしり並びます。こじんまりとしたお店は2〜3人でいっぱいになるので一組ずつ入ってパンを選ぶため、お店の前はたいてい行列ができているものの、風にそよぐ木々の木陰で緑豊かな二宮町の自然を感じながら待つのも楽しい時間です。

オーナーでパン職人の山下雄作さんは、デンマークに留学した経験があり、その後は東京にあるデンマークの家具メーカーに勤めていて、パンづくりとは無縁だったのだそう。そんな日々から、自分で作ったものを大勢の人に喜んでいただけるような仕事をして地に足をつける生き方をしたいと、まったく別の方向へと人生の舵を切り、パン職人の道を歩き始めたのだとか。

どこにもないここだけの美味しさは2種類の酵母から

パンの素材は厳選していて、北海道産の小麦とゲラントの塩、オーガニックシュガーそれに2種類の酵母を併用しています。酵母はデンマーク産の有機リンゴに由来する自家製酵母と、白神山地で採取した自然酵母を培養した白神こだま酵母です。この酵母がモチモチとした食感を生み出し、一見するとハード系に見えるパンも実際に手でちぎると伸びるような弾力があります。

オープン当初は十数種類だったというパンも今では40種類ほどに。毎朝の食卓に欠かせない食パンやシンプルな美味しさのカンパーニュなどのほか「シナモンロール」(330円)やブルーベリーとクリームチーズの相性が抜群の「パン・ド・ミルテイユ」(330円)などが続々と焼きあがります。7個のオリーブを生地に入れた「パン・ド・オリーブ」(280円)や「落花生を入れた抹茶のパン」(680円)など二宮町の特産物が入った種類もおすすめです。

スぺシャリテは「さつまいものクッペ」。内側の生地にサツマイモを練りこみ、外側の生地には紫サツマイモを練りこんだ、まるで大きな焼き芋のようなパンです。お芋の甘い香りと小麦の美味しさの両方を楽しめ、2つに割ると白い生地と小麦色の生地の間に、紫サツマイモの濃いピンク色の細いラインがくっきりと入るおしゃれなパンです。

スローな時間が流れる北欧テイストの食堂

ベーカリーの横には食堂を併設しています。こちらは倉庫をリノベーションした建物で、ガラガラと音の出る引き戸から入ると、ふわっと気持ちが軽くなるような心地のよさに包まれます。ピアノも置いてあり、時々ここでクラシックのコンサートなども開かれるのだそう。

ここではまず食べることを大切にしてほしいという思いから、カフェではなくあえて食堂と呼んでいます。無垢のナラ材やチーク材を天板にした手づくりのテーブルやデンマークのビンテージチェアなど、やさしい手触りのものに囲まれると自然と心がほぐれていくのを感じます。

棚にはテキスタイルや詩集など様々なジャンルの本が並び、自由に手に取って読むことができます。丸いフォルムのスタンドライトがほのかに灯る奥のソファ席で一人静かに読書にふけるほか、親子で絵本を読むほのぼのとした光景に出くわすこともありますよ。

具沢山の贅沢スープでおなかも心を満たすランチ

この食堂ではベーカリーでも販売しているバーガーやサンドイッチなどに、温かいスープとサラダがつくランチをぜひ。取材で野菜スープをオーダーしたところ、キャベツやタマネギなど細かくカットした野菜が具沢山に入っていて、飲むというよりはまさしくスプーンで食べるスープでした。ほっとした味わいに心も安らぎます。

作り手の顔が見える使いやすい道具たちにほっこり

運びやすい持ち手のトレーやカップなども、山下さんの知り合いの作家さんがつくったもので、手に馴染む風合いが使いやすいと評判です。とくにマグカップとお皿は黄色で揃えていて、この色には山下さんがお店を始める時の想いが詰まっています。

お店のそばにある吾妻山公園という小高い山に登ると、キラキラと光る相模湾を一望し、毎年1月から2月にかけては黄色の菜の花の向こうに雪をたたえる富士山も望みます。お店を開く前にこの絶景に出会った山下さんは、その時の感動を少しでもおすそわけできればという想いから黄色にしていると話してくれました。この食堂でのんびりと過ごした後は、ぜひ吾妻山公園にも立ち寄ってこの景色を眺めてくださいね。