ダウンタウン・松本人志(60)の休業宣言から1カ月余が過ぎた。テレビ界への影響はどの程度生じているのか。視聴実態を表す個人視聴率を使い、浮き彫りにしたい。また、松本のファンは若い世代に多いため、コア視聴率(13〜49歳に限定した個人視聴率)も用いたい。(視聴率はビデオリサーチ調べ、関東地区)【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

松本不在で視聴率が大きく伸びた番組も

 松本の在京キー局のレギュラー番組は6本あった。松本が画面から消えたことにより、視聴率が落ちた番組がある。一方で、意外や数字が大幅に伸びた番組も存在する。

 視聴率が大きくアップしたのはフジテレビ「まつもtoなかい」(現「だれかtoなかい」日曜午後9時)である。松本の休業を誰も予想しなかった昨年12月3日放送の個人視聴率は3.8%(横並び4位)だった。100人のうち3.8人が観ていた。コアは3.9%(同2位)。13歳から49歳の100人のうち、3.9人が観ていた。

 一方、松本が番組から去った後の1月28日放送は個人が4.9%(同3位)、コアが5.4%(同1位)。個人もコアも1%以上伸びた。個人視聴率の関東地区での1%は40.5万人だから、視聴人数がかなり増えた。

 この番組では松本と中居正広(51)がゲストとの トークを繰り広げてきた。コア層がメインターゲットなのは明らか。そのコアが伸び、日曜午後9時台のトップに立ったのだから、スタッフは快哉を叫んでいることだろう。

旧ジャニ独立組2人がMCという話題性

「まつもtoなかい」は世帯視聴率(2020年4月を境にテレビ界とスポンサーが使わなくなった視聴率)が6%前後と低かった。このため、不人気番組の扱いを受けることもあったが、もとから視聴者の実数を表す個人視聴率は良かったし、番組側が観てもらいたい層には刺さっていたのである。

 その番組を観ていた「家」の数を測る世帯視聴率は、高齢者が観ないと数字が上がらない。少子高齢化により、高齢者の1人暮らしが爆発的に増加しているからである。だから、主に若者をターゲットにするバラエティや恋愛ドラマの世帯視聴率は高くならない。

 松本が消えた後の「まつもtoなかい」は若い人を中心に視聴者がさらに増えた。理由はいくつか考えられる。

 1月28日放送にゲストとして登場し、MCの中居正広(51)との トークを繰り広げたのは二宮和也(40)ら。同31日に二宮が松本の後任MCに就くことが発表されたが、ゲスト出演時にはそれが分からなかったので、話題性が十分あった。2人とも旧ジャニーズ事務所からの独立組という点でもインパクトがあった。

 松本が番組から去ったことも視聴率アップにつながったと見る 。松本は以前から女性の視聴者に敬遠されていた。「F(女性)」の個人視聴率が全般的に低かった。性別、世代別の個人視聴率調査を見ると、どんな視聴者層に人気があるのか、煙たがられているのかが一目瞭然なのだ。松本にはアウトロー臭があるからか、損をしているようだ。

「水曜日のダウンタウン」も好調

 TBS「水曜日のダウンタウン」(水曜午後10時)も松本が画面から消えた後に数字がかなり上がった。とくにコアがいい。昨年12月6日放送は個人が2.7%(横並び4位)でコアは2.9%(同2位)。1月24日放送は個人が3.5%(同3位)でコアが4.4%(同1位)にアップした。

 真裏に若者が喜びそうな日本テレビのドラマ「となりのナースエイド」とフジの同「婚活1000本ノック」がありながらの結果だから、立派の一語である。

 民放界で1、2を争うバラエティ制作者と言われる藤井健太郎ディレクターが力量を見せつけている。相方の浜田雅功(60)の奮闘もあるので、松本不在でも失速しそうにない。

 日本テレビ系(制作・よみうりテレビ)「ダウンタウンDX」(木曜午後10時)の視聴率は微増した。昨年12月7日放送は個人3.6%(同1位)で、コアが3.0%(同1位)だったが、1月25日放送は個人3.8%(2位)、コア3.9%(同1位)。浜田が1人で番組の人気を守っていた。

 松本と2人でやっていたことを浜田は1人でこなしているのだから、相当しんどいはず。だが、明るく振る舞い、疲れや辛さを見せない。浜田は小学校以来の友人である松本とのコンビを守りたいから、孤軍奮闘しているのではないか。

以前と変わらぬ体制で視聴率ダウンも

 松本はTBS「クレイジージャーニー」(月曜午後10時)には出演を続けている。2月5日放送のエンディングで流れた同12日放送の予告にも登場した。ただし、休業を宣言しているのだから、このまま出演し続けることはないだろう。

 松本の登場が続いていることもあってか、視聴率は以前とほぼ一緒。昨年12月4日放送分は個人が2.2%(横並び5位)、コアが2.1%(同3位)。1月22日放送は個人が2.0%(同4位)でコアが2.3%(同2位)だった。

 松本は1月26日放送のフジ「酒のツマミになる話」(金曜午後9時58分)にも出演していた。しかし、2月9日放送から「人志松本の」という冠が取れ、松本の席には千鳥の大悟が座った。

 この番組は松本が出たままでも視聴率がダウン。性加害疑惑によって松本のイメージが落ちたことも影響しているのかも知れない。

 昨年12月8日放送は個人が4.3%(同2位)、コアが3.6%(同2位)だったが、1月26日放送は個人が2.4%(同4位)でコアが2.4%(同4位)。かなり落ちた。

 この番組は企画者も松本。番組を仕切るMCもやってきた。それを誰かに任せるようになったら、番組のカラーは確実に変わる。視聴率に大きな影響がありそうだ。

「ガキの使い」は不在の影響を避けられない?

 日曜深夜の人気番組である日本テレビ「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!」(日曜午後11時25分)は僅かに数字を落とした。

 昨年12月10日放送は個人2.4%(同1位)、コア2.6%(同1位)。一方、1月28日放送は個人1.8%(同2位)、コア2.3%(同1位)だった。

 この番組も松本が企画・構成に携わっていた。単なる出演者ではないから、不在の影響は避けられないのではないか。

 一方、この番組の大きな特徴はコアが高いこと。若い視聴者に人気があるからだ。テレビ界、スポンサーは使っていない世帯視聴率は3.4%に過ぎず、横並びは4位だが、その理由は単純。高齢者に好まれにくい番組だからである。

 一方、コアが高いとスポンサーに歓迎される。たとえ松本の不在が長くなろうが、浜田も日テレも「ガキ使い」を手放さないはずだ。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。放送批評懇談会出版編集委員。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。

デイリー新潮編集部