早朝から夜中まで会議

 ジャニーズの性加害問題が表面化して事務所は解体。被害者への補償業務に特化する「新会社」が設立されたが、いまだ世間からは批判の声が聞こえる。はたして被害者救済は進展しているのか。自ら芸能界から身を引いた、新会社の代表・東山紀之が補償贖罪の現在地を語った。【前後編の後編】

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 代表を引き受けた当初は、今後の旧ジャニーズ事務所をどのような形にしていくのがいいか、そして補償の枠組みや仕組みをどのようにするかなど、検討しなければならないことが山積みでした。また、新しい会社を作るにはどのような形にすべきかなどが保留の状態でしたので、早朝から夜中まで会議が続く日々でした。

 今は、少し落ち着きましたが、例えば今日、4月17日の予定を紹介すると、朝8時半から毎日行われる補償の進捗状況の会議に始まり、社内のさまざまな会議、私との面会を希望する被害を申告された方々と時間をかけてお話しする対話の会などが続き、20時ぐらいまでスケジュールが埋まっております。

 ほんの少し前まで芸能活動をしてきた身からすれば、180度違う日々を送っていますが、なぜ被害者補償の先頭に立つと決めたのか。そう聞かれることが多々あるので理由を述べておきたいと思います。

「ポジティブな言葉をいただくことで、なんとか…」

 昨年8月29日、当時のジャニーズ事務所における再発防止特別チームの記者会見があり、オーナー以外が代表に就かねばならないという勧告が出されました。

 その当時、ジャニーズ事務所の代表を引き受けてくれる人は一人もいませんでした。社員や所属タレントだけでなく、外部からも手が挙がらない。そのような状況が続く中、後輩のタレントたちを路頭に迷わせるわけにはいかない、年長者の自分がやるしかないのだろうとの思いが強くなり、手を挙げたのです。

 そう決心してからすべての芸能活動を辞めるまでの間は、「誰もやりたがらないことを請け負ったあなたを誇りに思う」とか、「ただただ、ありがとうございます」と言ってくださるファンの方々の言葉が、自分を支えてくれたと思っています。

 昨年9月5日付でジャニーズ事務所の代表に就き、10月17日付で現社名に変更して今に至りますが、私自身のモチベーションは、被害者の方々と対話を重ねる中で、「これで次にいける」「一日でも早く、タレントの皆さんが、本来のエンターテイメントで人に元気を与える仕事に注力できるように、陰ながら応援させていただきます」というポジティブな言葉をいただくことで、なんとか保たれているような気がします。

妻・木村佳乃の反応は

 これまで100名ほどの方々と直接お会いして、おわびを申し上げています。基本的には弊社の担当者と二人で会うことが多いのですが、被害者の中には、弁護士との同席を希望される方もいらっしゃいます。その際は、それぞれのご希望に沿う形で面談をしております。

 被害者の皆さんからは「これで心の中で一区切りができた」とおっしゃっていただくことが多いです。こちらから謝罪を申し上げる場であるのに、「社長を引き受けてくださり感謝しています」「いまだ先の見えない状況かと思いますが、お体ご自愛ください」などと、逆に私のことを心配してきてくださる方もいて、そんなふうに言ってもらえるとは考えもしなかったので、涙腺が緩むこともしばしばあります。

 妻(女優の木村佳乃)も私が社長を引き受けることについては、理解してくれました。社長就任を決断するにあたって自宅で、芸能活動を引退して被害者への補償に専念したいと、妻に話をしたら、静かにうなずいてくれました。誰も手を挙げないことを引き受けてしまう性格であることを、妻は分かっていたのかもしれません。記者会見の後など、世の中から大変な批判を受けた時も、私の心が折れないようにと明るく振る舞ってくれました。深いところで自分を理解してくれているし、信じてくれていると感じました。

「思春期の子どもは、外で冷たい目で見られることも経験」

 今回のことで子供たちも、ちょうど思春期ということもあり、友人の些細な言葉にも傷つくし、外で冷たい目で見られるといったことも経験しているようです。

 私は、貧しい家で育ったので、子供の時に辛いことを経験するのは成長の糧になると、そう思ってしまいます。子供たちにとっては関係のない理不尽なことでもあるのですが、今はただ、自分は誠実に仕事をしているから信じてほしいと伝えてあります。

 多くの方々の支えがあって、なんとか今の自分があるのだと感謝しています。周囲にいた仲間も皆、それぞれの道を歩み始めています。藤島(旧ジャニーズ事務所前社長・藤島ジュリー景子氏)とは補償の会議がありますので、Zoom等で毎日話はしておりますが、井ノ原(快彦)は、旧ジャニーズ事務所のタレントが移籍した「STARTO(スタート) ENTERTAINMENT」で取締役CMO(最高マーケティング責任者)となりましたので、友人として、家族等についての会話は、たまにありますが、仕事関係の話はしておりません。

 4月10日、本格始動したスタートエンターテイメントが東京ドームで記念公演を行いました。私は足を運んでおらず、ニュースなどで見ただけですが、後輩たちを無事送り出せたと思うと心底うれしかったです。

 古巣から去って独立した人たちもいます。私は、それぞれが自分の信じた道を選ぶことが正しいと思っています。各々が芸を磨き上げ、芸の道を突き進み、全体で日本の芸能界が盛り上がっていくなら素晴らしいことだと思います。

 そのためにも、私は全力で補償業務に専念していく。その決心に揺るぎはありません。

 前編では、東山が語った芸能界復帰の可能性、BBCのインタビューを「残念だった」と語る理由などについて報じている。

「週刊新潮」2024年5月2・9日号 掲載