先生には12月分は渡しています

「赤ベンツ不倫」「勤務実態なき幽霊公設秘書疑惑」の次は「秘書給与詐取疑惑」である。自民党の広瀬めぐみ参議院議員(57)。公設秘書が給与を「先生に渡した」と話している証拠音声が残されている上、LINEには「違法なことだから」との文言まであって……。【前後編の前編】

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 手元に一本の音声データがある。自民党の広瀬めぐみ参議院議員の地元・岩手の事務所にいる公設第一秘書のA氏に対し、政策秘書を務めていたB氏がかけた電話の通話記録。その中の重要部分をご紹介しよう。

A氏 広瀬めぐみ事務所でございます。

B氏 東京事務所、Bです。お疲れさまです。

A氏 お疲れさまです。

B氏 Aさんちょうどよかった。1件照会したかったんですが、しーちゃんってさ、給与とか賞与とかって出た?

A氏 給与は出ましたよ。Bさん聞いたかもしれないですけど、結局、私第二だったの11月じゃないですか。11月まで私が第二給与もらっていたので、C(A氏の妻の名前)12月分からしかもらえなかったんですね。

B氏 うんうん。

A氏 それで今日1月分のは入っているんですよ。先生には12月分は渡しています。

B氏 あーなるほど。

A氏 賞与はないですよ。

B氏 あーそうなんだ。分かりました分かりました、オッケーです。

A氏 なんかありました?

B氏 ないないない。ないけどそういえば手続きしたかなって。

 途中で出てくる“しーちゃん”とは、一時期、広瀬氏の公設第二秘書を務めていたA氏の妻のこと。そして、まさにこのA氏の妻に関する疑惑をお伝えしたのが、本誌(「週刊新潮」)3月28日号の記事である。そこでは、彼女が勤務実態のない“幽霊公設秘書”だとささやかれていることについて詳述した。

秘書の給与が広瀬氏に?

 弁護士でもある広瀬氏が参院選に挑み、岩手選挙区で見事当選を果たしたのは2022年7月のこと。

「Aさんは広瀬さんの当選直後にまず公設第二秘書になり、同じ年の11月に公設第一秘書になっています」(広瀬氏の地元事務所の関係者)

 A氏が公設第一秘書になったことで枠が空いた公設第二秘書に就任したのがA氏の妻であった。昨年初夏、本誌が参議院で秘書の現況届を確認したところ、A氏の妻の採用時期は22年11月29日。参議院議員課の秘書担当職員によると、

「秘書給与は月に何日働かなければ支払われないといったような規定はないので、例えば11月末に秘書になり、1日しか働いていない場合でも、翌12月10日に給与が満額支払われます。公設第二秘書の給与については、1級1号給で月32万5680円からとなっており、一番高いと3級5号給で47万5200円です。この数字は地域手当相当額も含んだものになります」

 本誌の取材に対しA氏の妻は、秘書給与を自分で全額受け取っていたとしていた。が、冒頭の通話記録を聞く限り、その証言は疑わしいと言わざるを得ない。何しろ彼女の夫であるA氏は、

「先生には12月分は渡しています」

 とはっきり述べているのだから――。

“先生”とは無論、広瀬氏のこと。“12月分”がA氏の妻の給与を指すのは明白だ。そこから浮かび上がってくるのは、公設第二秘書を務めていたA氏の妻の給与が広瀬氏に渡った、という構図に他ならない。

 公設第二秘書の給与は公金が原資である。その秘書給与を巡る事件を引き起こした国会議員として思い出されるのは、辻元清美参議院議員。代議士だった02年当時、勤務実態がない政策秘書の給与を詐取していたことが本誌報道で明らかになり、翌年に逮捕。04年に有罪判決が下っている。

「賞与……出してる?」

 問題の音声データに戻ろう。B氏はA氏との会話が終わると、地元事務所の別のスタッフに代わってもらい、用件を話した後、電話を切っている。続いて、B氏と参議院議員課の担当者の通話が再生される。

B氏 あっ広瀬めぐみ事務所と申します。お世話になってます。ちょっと教えて下さい。先ほど、ウチの事務所の第二秘書、Cの件で、賞与が出てるとか出てないとかっていう話があったじゃないですか。あれ聞きたいんですけど、賞与……出してる? 本当に? 3割分くらい出てるよーみたいなこと、先ほど聞いて。

担当者 はい、先ほど申し上げましたけれども。少々お待ち下さいね。

B氏 はいはい。

担当者 C様の件ですよね?

B氏 そうそうそうそう。

担当者 そうですね。期末手当、勤勉手当が支給とありますね。

B氏 3割出てる?

担当者 はい。

B氏 なーにを見てんのかなあ、あいつなあ。うーん。あれ、23日にまとめて出したってことかな、そうすっと。

担当者 そうですね。23日にまとめて振り込みとかされていて。と、期末手当、勤勉手当分として、お支払いされていると思います。

 前出の参議院議員課の秘書担当職員が言う。

「公設第二秘書の賞与は現在、1回につき、期末手当がベース給与の1.225月分、勤勉手当が1.025月分支払われます。賞与は年2回。6月と12月で、12月の分は基本的に12月10日に支払われます。在職期間が3カ月未満の場合、賞与は約3割が支給されます」

 通話記録では、賞与が支払われたのが23日となっているが、

「12月10日までに賞与が支払われるためには、9営業日前までに秘書として採用されたという届出がされている必要があります。11月29日に採用された場合、届出が9営業日前までに間に合わず、賞与の支払いがずれこむ可能性は十分にあります」(同)

 問題の音声データは、B氏と担当者の会話が終わると、機械音声が“1月10日午後14時41分のメッセージです”と伝え、再生が終了する。22年11月以降の給与についての会話が交わされていることから推測するに、これは23年1月10日に録音された通話記録なのだろう。

 後編では、広瀬氏が秘書に給与、賞与を上納させていた疑惑について、重要な証拠となるLINEのメッセージなどと併せて報じる。

「週刊新潮」2024年4月4日号 掲載