「赤ベンツ不倫」に続いて、今度は「公金詐取疑惑」である。不祥事まみれの自民党・広瀬めぐみ参院議員が秘書給与を詐取していたのではないか、という疑惑を「週刊新潮」と「デイリー新潮」が報じた。当の広瀬氏は給与を詐取していたわけではなく「秘書からの借金だった」と回答したが、あまりに苦しい言い訳であるのは、当人の公的な報告書を見ても明らかなのだ。

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〈必ず録音してね〉

 まずは今回の報道を振り返ってみよう。

 自民党麻生派に所属する広瀬氏について、3月21日発売号の週刊新潮が指摘したのは広瀬事務所に勤務する公設第二秘書の勤務実態についてであった。

 2022年7月の参院選に当選した後、岩手県遠野市で不動産業を営むA氏が広瀬事務所に採用されていている。当初は公設第二秘書だったA氏が公設第一秘書に採用されたのは22年11月。その直後に空席となった第二秘書に採用されたのがA氏の妻だった。このA氏の妻が勤務実態のない幽霊秘書と地元で囁かれている疑惑について詳報したのである。 

 さらに今回、23年1月頃の広瀬事務所関係者の通話音声とLINEのスクリーンショットを入手。そこには公設第二秘書の秘書給与を詐取していたことを示す証拠が記されていた。

 まずはLINEについて。やりとりしているのは、広瀬氏本人と当時の政策秘書。そこで広瀬氏は公設第二秘書の給与明細と賞与明細を第一秘書からもらっておくようこの政策秘書に指示した上でこう綴っている。

〈彼に第二秘書のボーナスもでているんじゃないかということと、第一のボーナスもでてるんじゃないかと思うので〉

〈必ず録音してね〉

 すると、通話音声ではこう続く。音声はこの政策秘書と公設第二秘書の夫である第一秘書との会話だ。

 そこでは政策秘書が第一秘書に対し妻、つまり第二秘書の給与と賞与が振り込まれたかどうかについて尋ねている。

「12月分は渡しています」

政策秘書「しーちゃん(注・公設第二秘書のこと)てさ、給与とか賞与とかって出た?」

第一秘書「(中略)12月分からしかもらえなかったんですよね」

政策秘書「うんうん」

第一秘書「それで今日1月分のは入っているんですよ。先生には12月分は渡しています」

政策秘書「あーなるほど」

第一秘書「賞与はないですよ」

 先のLINEのやりとりに戻ろう。そこで広瀬氏は政策秘書にこう送っている。

〈やっぱり違法なことだから、もうやらない、あるいは新しい人が入るかもしれない、でもよい。となかく(ママ)奥さんにはやめてもらおう〉

 この一連のLINEと通話のやりとりから以下のことが読み取れる。

・広瀬氏はなぜか公設第二秘書の給与と賞与の明細を知りたがっていた

・それを実際に政策秘書が公設第一秘書に尋ねたところ「(22年の)12月分(の給与)は渡している」と語った

・広瀬氏はこの件について「違法性」を認識していた

 しかもこの第二秘書に勤務実態がないという疑惑があるのは、先に触れた通り。

 もし、勤務実態のない公設秘書の給与を政治家本人が上納させていたとすれば、公金を詐取したことになり重大な犯罪になりうる事案である。実際、2002年には辻元清美参院議員の事務所で秘書給与流用が発覚し、辻元氏本人と秘書らが詐欺容疑で逮捕、有罪となっている。

 ちなみにこの第二秘書はこのやりとりの後もやめることなく、少なくとも昨年夏までは広瀬事務所に勤務していることを確認している。つまり、それまでは給与の詐取を行っていた疑いを持たれても仕方ないのである。

資産等報告書には何が書かれているか

 週刊新潮のこうした指摘に対し、広瀬事務所は取材に以下のように回答している。

〈私は令和4年8月から議員活動を始めましたが、資金不足で大変であったことから、A氏(注・公設第一秘書)から金銭の借り入れをしていました。A氏の好意で、同氏が融通できる金額を一時借用しておりました。したがって、「上納」という事実は一切ございません〉

 要は公金を詐取したのではなく、あくまで金を借りただけだ、と抗弁しているのである。

 さらに3月29日には広瀬氏の代理人弁護士が週刊新潮に対し抗議書を送付。

〈会話において公設第一秘書A氏が発言しているのは、A氏の貸付金のことであり、公設第二秘書が通知人(注・広瀬氏)に金銭を渡していたなどという事実は一切ありません〉

 と改めて主張した。

 しかし、先のLINEにある通り、広瀬氏本人が違法性を認識していることからこの言い訳は相当苦しいと言わざるを得ない。さらに、それらを裏付けるのが広瀬氏本人が提出している公的報告書の存在である。

 国会議員は資産公開法によって、任期開始日時点で所有している資産を提出しなければならない決まりになっている。当の広瀬氏は参議院に対し、22年11月1日付で「資産等報告書」を提出している。

 その報告書を閲覧すると、都内に所有する土地や建物の他に、預金として「50000000円」と記されている。さらに、借入金という項目には「該当なし」とある。つまり、広瀬氏は5000万円の預金を有する上、借金ゼロ。とても資金難であるようには見えないのだ。

 ではこの報告書を提出した後に借金をしたということは考えられるだろうか。

本当に資金難なのか

 参議院の議員課によれば、

「資産等報告書のほかに資産等補充報告書というのもございまして、こちらは当選時の資産等報告書からの増減を記載していただく形になります。借入金の増減などがあれば、前年1月1日から12月31日までの増減を翌年4月に提出していただきます」

 となると広瀬氏の場合、一昨年12月までに借入金が発生したなら、すでに資産等補充報告書を提出しているはずだ。実際、差し当たって上納させた疑いが持たれているのは22年12月の給与。ところが、この点も確認したところ、広瀬氏はこの補充報告書を提出していないことがわかった。

 では、政治資金収支報告書ではどう記載されているのか。

 広瀬氏が代表を務める政党支部と政治団体は二つ存在している。「広瀬めぐみ後援会」と「自由民主党岩手県参議院選挙区第一支部」である。

 本来、支部や団体として金銭を借り入れた場合は政治資金収支報告書に借入金として記載することになっている。しかし、令和4年分の両団体の報告書を見ても、そうした記載は見当たらなかった。

 また、支部の報告書の収入欄をチェックすると、総収入約6800万円のうち、党本部から交付金が6400万円、医師会などからの献金が約300万円。広瀬氏からこの支部への寄付は100万円しかなく、やはりここでも資金難であることは伺えない。後援会に至っては収支上、ほとんど稼働していないように見える。

専門家の意見は

 政治資金に詳しい神戸学院大学の上脇博之教授が解説する。

「プライベートな目的で個人として第三者から金銭を借り入れた場合は資産等報告書に記載しなければ資産公開法違法です。一方、借金を政治活動に使ったのであれば、借りたのは、党の支部又は政治団体だった可能性があり、政治資金収支報告書に収入と支出を明記しなければ政治資金規正法違反の不記載になります。個人で金銭を借りて政治活動に使ったのであれば、その金銭を裏金化していることになってしまいます」

 ましてや広瀬氏は法を遵守すべき弁護士資格を有している国会議員である。説明責任が問われているのは言うまでもない。

デイリー新潮編集部