目を引く「西舘」の奮闘

 昨シーズン、球団史上2度目となる2年連続のBクラスに沈んだ巨人。3年連続のBクラスを回避すべく、ドラフトでは支配下で大学生1人、社会人4人という超即戦力の指名を敢行した。さらに積極的なトレードも敢行。特に弱点と言われていた投手陣の立て直しを図っている。チームは現在首位を争う位置につけているが、果たして、オフに行った補強はどの程度効果があったのだろうか。【西尾典文/野球ライター】

 以下のように、主な新戦力の成績をまとめた(成績は4月24日終了時点)。

<投手>
西舘勇陽:9試合0勝0敗0セーブ9ホールド 防御率0.00
高橋礼:4試合2勝0敗0セーブ0ホールド 防御率0.38
泉圭輔:4試合1勝0敗0セーブ0ホールド 防御率0.00
ケラー:7試合0勝0敗0セーブ1ホールド 防御率2.84

<野手>
佐々木俊輔:20試合13安打0本塁打3打点2盗塁 打率.232
泉口友汰:10試合0安打0本塁打0打点0盗塁 打率.000
ウレーニャ:2試合0安打0本塁打0打点0盗塁 打率.000
郡拓也:1試合0安打0本塁打0打点0盗塁 打率.000

 投手では、ドラフト1位の西舘が大きな戦力となっている。開幕からセットアッパーに定着すると、9試合連続無失点で9ホールドと完璧な働きを見せている。昨年は中継ぎ陣が崩れることが多かっただけに、西舘の加入は非常に大きなプラスである。ドラフト2位の左腕、森田駿也や他球団の即戦力が期待されたルーキーの多くが故障に苦しむ中で、西舘の活躍は見事という他ない。

抜群の安定感で先発投手陣の中心に

 他球団のスカウトは、西舘の投球について、以下のように話している。

「もともとスタミナがあり、非常にタフな投手という印象です。4年の春までは力任せになってスピードはあっても打たれるケースが目立ちましたが、最後の秋に変化球が抜群に良くなりました。リリーフならこれくらいできると思っていたので、驚きはありません。あとはシーズンを通して状態を維持できるかじゃないですかね」(パ・リーグ球団スカウト)

 競合の末に獲得したドラフト1位の選手をリリーフで起用することに対する疑問の声もあるが、過去にも中継ぎで結果を残してから先発に転向して成功した例がある。チームにとっても本人にとっても、まずは順調なスタートとなったと言えそうだ。

 もう1人、ソフトバンクからトレードで獲得した高橋がチームに寄与している。ソフトバンク時代の過去3年間は、一軍でほとんど戦力になることができなかったが、今年はキャンプからアピールを見せて開幕ローテーション入りを果たすと、ここまで抜群の安定感で先発投手陣の中心となっている。

 アンダースローでありながらスピードがあるというのがこれまでの特徴だった。今年は少しスピードを抑え、変化球を上手く使えるようになった印象を受ける。昨年はソフトバンクから現役ドラフトで阪神に移籍した大竹耕太郎がブレイクした。高橋も同様に移籍をきっかけにキャリアハイの数字をマークする可能性も十分にありそうだ。

トータルで考えれば「オフの補強は成功」だが

 一方、野手では、ドラフト3位ルーキーの佐々木の活躍が目立つ。オープン戦では規定打席に1打席不足したものの、打率4割をマーク。開幕戦で1番、センターとして起用されていきなり初ヒット、初打点をマークすると、その後も攻守に存在感を示している。ベテランの梶谷隆幸が開幕直後に怪我で離脱し、丸佳浩も少し力が落ちてきているだけに、外野の一角としてかかる期待は大きい。

 他にも、高橋とともにトレードでソフトバンクから加入した泉と、阪神から移籍したケラーも中継ぎとして貴重な戦力となっている。新外国人のオドーアが開幕直前に退団するマイナスがあったものの、トータルで考えればオフの補強は成功と言えそうだ。

 しかしその一方で気になることもある。それは、昨年飛躍の兆しを見せながらも、今年は停滞している選手が少なくない点だ。象徴的な存在が、秋広優人である。プロ3年目の昨シーズンは4月下旬からレフトのレギュラーに定着。シーズン後半に少し調子を落としたものの、打率.273、10本塁打、41打点という見事な成績を残した。

 巨人の高卒の選手が3年目以内に二桁ホームランを放ったのは、坂本勇人以来のこと。しかし今シーズンはキャンプイン前から阿部慎之助監督に遅刻癖を指摘されたことが話題となり、オープン戦でも結果を残すことができず、開幕は二軍スタート。二軍でもホームラン0本と低迷している(4月24日終了時点)。

芳しくない将来の「レギュラー候補」

 秋広以外にも、浅野翔吾をはじめ、増田陸や岡田悠岐、中山礼都、山瀬慎之介ら、近い将来のレギュラー候補として期待されていた選手が揃って二軍暮らしとなっている。中山を除くと、二軍での成績も芳しくない。

 長年の課題だった坂本の“後釜問題”は、門脇誠の出現で解消されつつある一方で、期待の若手は低迷していることは、世代交代を目指す巨人にとって大きな問題であることは間違いない。以前に比べると、FAで他球団から実績のある選手を獲得するケースは減っているとはいえ、極端な即戦力ドラフトやトレードなどですぐ使える選手をかき集めた結果、伸び盛りの若手の成長を阻害しているのではないだろうか。

 3年連続のBクラスを回避するためには、致し方ない部分もあるだが、チームの将来を考えると、秋広や浅野らの成長は必要不可欠である。ここから阿部監督がどのようにチームを作り変えていくかに注目したい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部