依存症やギャンブル依存について話してくれた精神科医の和田秀樹氏(本人提供)

 ドジャース・大谷翔平選手の通訳、水原一平氏が違法賭博に関与した疑いで、現地時間20日(日本時間21日)、球団から解雇され、世界中に波紋が広がっている。水原氏自らが“ギャンブル依存”を告白した、という報道もある。

■依存症は"理性”を破壊する

「依存症は理性を“破壊”します。決して性格の問題ではなく、脳の回路に異常が起きる病気です」

 そう話すのは、精神科医の和田秀樹氏だ。

 依存症には「報酬系」という神経ネットワークと神経伝達物質である「ドーパミン」が関係している。人間は、脳内でドーパミンが分泌されることで報酬系が刺激され、ワクワク感や多幸感といった「快楽」を感じる。依存症とは、この報酬系が依存対象によって異常な興奮を起こし、脳が機能不全を起こした状態のことをいう。

「そうやって脳の回路が壊れてしまうと、あとで良いことがあるから我慢する、ということができなくなり、いま目の前にある快楽に飛びついてしまうようになります。水原氏がギャンブル依存だったとして、どこまで深刻な依存だったかはわかりませんが、極端に言えば、水原氏にとって大谷選手が“カネ”に見えていたときもあったのではないでしょうか」

■食欲よりギャンブルを優先

 依存症患者は正常な判断ができなくなるので、「自身が持っているお金の多寡に関係なく、ギャンブルにお金をつぎ込む」と和田氏は言う。

「お金があればあるだけやりますし、なくてもやります。たとえば、生活保護を受けていたとしても、保護費を数日で溶かし、残りの期間は飲まず食わずで、なんとかしのぐ。次の保護費が入ったら、普通であればまず食べ物を買いますよね。でも、彼らはお金をまたギャンブルに使ってしまう。食欲という人間の本能よりも、ギャンブルで得る快楽を優先させてしまうわけです。依存症とはそういう病気です」

3月18日、大谷翔平選手と水原一平氏(左)=午後7時25分、韓国・ソウルの高尺スカイドーム

■「依存症は病気」という認識

 水原氏は、20日の開幕戦後、チームメイトの前で「ギャンブル依存症」であることを告白したと報じられている。同氏がそうしたのだとしたら、「アメリカで過ごした経験が影響しているのではないか」と和田氏はみる。

「アメリカだと、アルコール依存やギャンブル依存といった『依存症は病気である』という認識が一般的です。だからこそ、水原氏もチームメイトの前で告白できたのではないかと思います」

 そういった点では、有効な治療にたどり着ける可能性が高いのではないか、と和田氏は言う。

「たとえば、タイガー・ウッズがセックス依存症を治療で快方に向かったように、アメリカであればきちんとした治療施設や方法につながることが、日本よりも容易だと思います。同じギャンブル依存症患者たちで定期的に会を開いて語り合う、『ギャンブラーズ・アノニマス』(GA)が依存症の治療には有効だと言われています」

■立ち直るまでに数十年

 先日、和田氏のSNSに、数十年前に担当したアルコール依存症患者から、メッセージが来た。

「その方は、『先生のおかげで立ち直りました』と言ってくれました。私は少し話を聞いて自助グループと結びつけただけで、何にもしてないんですよ。だから、わざわざメッセージをくれたことに驚きました。依存症との戦いの日々は本当につらかったのでしょう。『立ち直った』と言えるようになるまで数十年かかったという当事者の声を聞き、この病気の悲惨さを改めて実感しました」

 いまだ不明な部分が多い水原氏の一件。真相究明が待たれる。

(AERA dot.編集部・唐澤俊介)

2023年3月、WBCのメキシコ戦前の大谷選手と水原氏