リブゴルフ勢ブルックス・ケプカの優勝で幕を下ろした今年の全米プロ。同じくリブゴルフ勢として知られるフィル・ミケルソンは、あまり喜ばしくない話題を振りまいてしまいました。それは今年のルール改訂ポイントを知らなかったことです。これを機に皆さんもしっかり覚えておきましょう。

ルールオフィシャルの指摘にも動じないミケルソン

 メジャーチャンピオンのトッププレーヤーだからといって、必ずしもルールを熟知しているとは限りません。全米プロゴルフ選手権の2日目、そのことが露わになった場面がありました。問題になったのは、今年変わったばかりのルールです。皆さんもこれを機に再確認してください。

全米プロ2日目をプレーするフィル・ミケルソン 写真:Getty Images
全米プロ2日目をプレーするフィル・ミケルソン 写真:Getty Images

 意外とルールを知らないことが明らかになったのは、メジャー6冠のフィル・ミケルソン。現在リブゴルフでプレーするトッププレーヤーです。

 全米プロ2日目、彼にとってはメジャー通算100回目の予選通過がかかったラウンドでした。その6番ホールで、フィルはティーショットを右に引っかけ、ボールはホール右にある“ウォーターハザード”(レッドペナルティーエリア)の中へ。

 そこで彼は1罰打でペナルティーエリアの縁を最後に横切ったと思われる地点(エントリーポイント)とホールを結んだ後方線上にドロップする救済を選択します。

 彼はまず、後方線上のファーストカット(セミラフ)のある1点にティーを刺します。次に、そこから1クラブレングスほど左に離れたフェアウェイ上にもう1つのティーを刺し、2つのティーの間のフェアウェイ上にドロップしました。

 そして、第3打の用意をしているとき、ルールオフィシャルがやって来て、「そのドロップは正しくない」とプレーを止めたのです。

 それに対してフィルは、やや憤慨した様子で「そんなことはない。正しく半円の救済エリアにドロップした」と主張。

 オフィシャルが「後方線上ではなかった」と指摘すると、「後方線上にマークし、そこから1クラブレングスが救済エリアだ」と抗弁しました。

 普通、オフィシャルからルーリングの注意を受けると、プレーヤーは動揺し、その指示に従うものです。しかし、フィルの場合は、自分は正しい処置を知っていると言い張ったのです。

 そこで、オフィシャルは無線で別のルールオフィシャルを呼び、フィルに説明してもらいました。

 ボールがペナルティーエリアに止まったとき、あるいはボールがアンプレヤブルになったとき、救済で後方線上にドロップする場合、昨年までは線上の1点を「基点」として、そこからホールに近づかない、1クラブレングスが「救済エリア」となり、プレーヤーは同エリア内にドロップすることができました。

今年改訂された後方線上の救済処置

 すでにご存じの方も多いと思いますが、この救済は今年から大きく変わり、プレーヤーは直接、後方線上にドロップしなければいけなくなりました。そして、ドロップしたボールは「基点」から、方向に関係なく1クラブレングスの円内に止まれば、救済処置は完了となります。

 無線の向こうのオフィシャルがそう説明すると、フィルは「今年から? まったく知らなかった」と反応。

 オフィシャルが「大丈夫です。あなたは間違った箇所にドロップしただけです。後方線上にドロップし直せばいいんです」と助言すると、「私の誤りに気づき、止めてくれてありがとう。感謝します」

 さっきまでの自信満々の態度はどこへやら。現場に居合わせたアメリカのメディアは「フィルが急にしおらしくなった」とリポートで伝えています。

 オフィシャルが気づかなければ、フィルはペナルティーエリアからの1罰打での救済が「誤所からのプレー」で2罰打になるところでした。その余分な1罰打を免れた結果、彼は2日間を通算6オーバー、カットラインぎりぎりで予選通過。メジャー通算100回目、区切りの「メイク・カット」となったのです。

 ちなみに、この「100」という記録は歴代3位。1位はジャック・ニクラスの131回。2位はゲーリー・プレーヤーの102回。タイガー・ウッズは77回となっています。

 今回は、たまたまオフィシャルが目撃したから救われたわけで、基本は「ルールは身を助く」です。熟知するに越したことはありません。

小関洋一